カナダ特有のアイデンティティの危機、『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』

新年おめでとうございます! 星読み☆映画ライターのJunkoです!

2025年1本目は、こちらになりました。カナダの青春コメディ、『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』(2022)です。チャンドラー・レバック監督、主人公は男性ですが女性監督の自伝的映画とのこと。

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』へのひと言

カナダらしい、身の丈に合った生き方。

主人公のローレンスは、カナダの田舎に住む、映画好きな高校生の男の子。男友達マットと「サタデー・ナイト・ライブ」を一緒に観るのが、仲良しの証拠。

https://twitter.com/cinema_qualite/status/1874814871973597286

カナダの大学に行くことを親から勧められても、ニューヨーク大学(NYU)ティッシュ芸術学部で映画を学びたい、とこだわりを捨てられません。マーティン・スコーセーシー(スコセッシ)監督やスパイク・リー監督の卒業校ですね。2003年の設定で「9万ドルの学費が必要」と台詞にありますが、高額は今にも通じます。カナダにも映画を学ぶのにいい大学はあるのですが。

そしてローレンスはレンタルDVDショップでアルバイト職を得ますが、そこの店長さんはかつて女優を目指してロサンゼルスで暮らしていたとのこと。

分かりますか? 彼らの一流とするものが、全部アメリカなのです。よく、カナダの優秀な学生がアメリカに就職すると聞きますが、その方が高給だからです。

日本は言語の問題もありますが、9割の日本人にとって中国への就職が憧れ、とか、トップクラスの高校生は韓国の大学に行く、とかいうことはないわけです。それを考えると、カナダにとっての隣国アメリカの存在が、国のアイデンティティを問われるほどに大きいか、というのが分かると思います。

その上で、どこを落としどころにするか、登場人物がそれぞれに考えているわけで。折り合い方、落とし前の付け方が、カナダ人らしいと思えました。

余談ですが、ダイバーシティもカナダらしいです。高校も然り、レンタルショップの店員さんたちも然り。いろいろな肌の色の先生や生徒がいて、関係なく友だちになっている。レンタルショップ店員の、年齢も性別もさまざまで、車文化だからこそ助け合って生きている。こういった人たちがナチュラルに混じっているのが、まさにカナダの強みと言えるでしょう。

映画の愛をかざしてはいけない

私も映画が大好きなので、心当たりがあるのですが、自分の強く推したい映画もあれば、そうではない映画というのもあります。

でも、お仕事として推さなければいけない作品もあるし、自分は観ないけれど子どもなど特定の層に愛される作品もある。そこが、難しいところです。産業を支える時、愛が邪魔をしてしまうからです。

この作品の根幹にも触れますが、映画好きが陥りがちなのは、「映画好きが好きな自分」です。一方で映画を愛している人は、どんな映画にも愛を注ぎますし、産業にプラスな選択をしていきます。何かを限定するための愛ではなく、分かち合う感じの愛。これがポイントですね。

オリジナルムービーはもうないのかも

本作は映画への愛を込めたものなので、歴史上の作品、過去の作品が出てくるのはありとして、「こんな作品初めて観た」というコメントを観客から探すのは、難しい時代です。

クエンティン・タランティーノ監督もそうであったろう、反復と模倣に明け暮れるシネフィレの日常。加えて、ティーンのTVカルチャー、進学への苦悩、メンタル、親子の問題。そして映画界で起きた性の搾取についても触れています。2020年代は、2000年代と変わらない課題を抱える一方で、社会は少し対処に前進したようにも感じます。

そんな中、観終わった時に若い観客の一人がポロッと、『リコリス・ピザ』みたいだった、と発言。おー、まさにそれ!と思いました。ポール・T・アンダーソン監督推しの主人公なら、こんな褒め言葉を喜ぶでしょうね。『パンチドランク・ラブ』(2002)も観ていますが、今の20代ではおそらく観ていない作品。『リコリス・ピザ』は、十分にPTA色満載の作品です。

映画作家なら、「この世にないものを作ってみたい」欲求があると思いますし、観客もそれを期待したいところ。一方で、映画愛を感じられるこんな作品も、必要なんだと思います。コメディというジャンルの中に社会課題を詰め、笑いと愛で包んだところは、監督の腕の見せどころでしょう。

今日はこの辺で。

映画公式サイト:https://enidfilms.jp/ilikemovies

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

おすすめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です