思考の排除から何が見えるか、『美しき仕事』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

すごい作品を観てしまいました。『美しき仕事』しかも1999年、女性監督とのことで、ほぅ、という驚きが続きます。

クレール・ドゥニ監督、お名前だけだと知識がなくて女性とは判断できず…。観たいと決めたのは、ドニ・ラヴァンが出ていたからです。

ドニ・ラヴァンを初めて観たのが『汚れた血』か『ポンヌフの恋人』のどちらかで、今回も1990年代のドニ・ラヴァンが観られるのが嬉しすぎます!

日本でも強烈な脇役がいずれ主役になってしまうように、ドニ・ラヴァンも典型的な主役級脇役。同時に彼の場合、卓越した身体能力を持っているので、いつも目を見張ってしまいます。

『美しき仕事』へのひと言

ルーティンによる思考停止。

兵士として日常を過ごすことは、実は日常ではないのかもしれません。

土埃の中で、過酷なトレーニング。上官も同じか上回る身体機能。水と思われるシャワー。同じテーブルでの食事。ヨレヨレの服を手洗い。アイロンがけや、ベッドメイキング。夜の見張り番。たまに真っ白な制服を着て、夜の街に繰り出す。

とにかくこのような毎日を送ることで、何も思考しない人間が育っていく気がします。

もちろん兵士ですから、戦時となれば戦いますが、少しの繁華街と岩山に覆われた海辺の土地で、一体いつ有事があるんだろうと言う空気感。それすらも、考えなくなっていく。

会話もごくわずかなだけに、この虚脱感あふれる凡庸な日々と、登場人物の繊細な心の動きが、見事に映像に表現されています。回顧するなら、懐かしいものに思えるのかもしれません。

外国の外人部隊

外人部隊の背景に詳しくはないのですが、兵士の中にはフランス語が片言の人もいました。つまり、ここは本国フランスから離れたジブチ。アフリカの開放感ある都市。そしてフランス国籍だけではないよせ集まりの兵士たち。つまり愛国心も確信は持てず、ただやるべきことをやる。自分の体を資本とした、お金目当ての兵士が多いでしょう。

このロケーションと兵士たちの背景が、この作品を開放的ながら閉鎖的である、独特のものにしています。

上官であるガルー(ドニ・ラヴァン)がライバル視するサンタン(グレゴワール・コラン)の仏像顔と言ったら!

グレゴワール・コラン自身はフランス生まれの俳優さんなので、外人部隊にいる立ち位置が分かりませんでしたが、ラヴァンとは東と西の横綱対決といった感じの睨み合いでした。

映画はモーション!

兵士の日々の訓練に見る、一定のリズムを刻む動きの美しさに私たちは惹かれます。

レニ・リーフェンシュタール監督の『オリンピア』もそうですが、磨き上げられた人間の肉体は純粋に美しいものです。

映画がムーヴィーと言うように、動きがなければ映画ではない。そこにドニ・ラヴァンがいるわけですから、最後まで目が離せないのが、本作です。あー、最後のシーンだけでももう一度見たい。かなり中毒性のある作品ですね。そして、ドニ・ラヴァンを中心として、部下であるグレゴワール・コラン、上司であるミシェル・シュボール、この3人の最高の時期をフィルムに収めていることの価値を伝えたいです。男の色気!

映画公式サイト:https://www.beau-travail2024.com

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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