腹の底からの声を聴く、『関心領域』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
信頼する人から作品をお勧めされたら観るようにしていますが、最近ではジョナサン・グレイザー監督の『関心領域』(2023)がそうでした。ホロコーストの映画だと分かっているので、観ると決意する前に少し時間がかかりました。そして、すごい作品でした。
『関心領域』へのひと言
ポーランドの底力。
映画は戦時下にプロパガンダとして使われることもありながら、一般的には対極にあるものだと言えます。つまり、戦争のない時代において、人は表現として映画を作ることができ、芸術を楽しむことができるのです。そして、映画は反戦メッセージを含むことがあります。
原作は英国人、マーティン・エイミス氏の小説(英語版)で、2014年に刊行されています。早川書房から、2024年5月に急遽翻訳も出たようですね(日本語版)。
1939年9月にドイツがポーランドを侵略したことで始まった第二次世界大戦。そして、アウシュビッツ収容所は今のポーランドにあります。ユダヤ人の多かったポーランドで、多くが命を奪われました。
日本は島国のため、地続きに侵略されることが想像し難いというか、少し非日常のように思えるかもしれません。しかしポーランドの歴史は、侵攻を受けたり犠牲者が出たりを繰り返しています。
一方で、ポーランドは現在戦禍にあるウクライナを支援していますが、かつてはウクライナの領土を持っていたこともあるほどです。
長くなりましたが、ポーランドはポーランドとして明確に意思表明しなければいけないことがある。ポーランドの重要な登場人物もいます。本作の製作国としても、アメリカ、イギリス、そしてポーランドが関わっています。
ポーランドの、腹の底から出した声が、伝わってきます。
色彩に現れる非現実感
目の前にあっても見えない、近くにいても聞こえない、という人間の性分は、本当に恐ろしいです。特に、本作の音響は、さまざまな評論からも秀逸なのが明らかでしょう。
もう一つ、色彩も独特だと感じました。主人公の男性、ルドルフ・ヘスの着ている真っ白なスーツ。そして強い夏の日差し、川の水面の反射。フィルムが露出オーバー気味です。白く飛んでいて、どこか現実味がありません。
そう、この作品全体を占める雰囲気が「非現実感」です。
1940年代のアウシュビッツが遠く離れた過去のように思いながら、「あなたは今、地球のどこにいて、何を見ていますか」と問いかけてくるのが、本作のすごいところです。ヘス夫妻はとても傲慢で自己中心的に見えました。でももしかしたら、それとあまり変わらないことが、色々なレベルで起こっているかもしれないのが、2020年代のように感じます。