歴史から何を学べるか 新作『ブラック・クランズマン』
満席の映画館は、気持ちがよいものです。
休日の午前の回に出向きましたが、その回も午後一の回も、満席!3月22日公開したての、『ブラック・クランズマン』です。
ネタバレしたくないので、 全体にかかることからこの映画を称えたいと思います。
脇役陣に感動!
本作品には、人種差別主義者、白人至上主義者が出てきます。それに立ち向かう役どころもカッコいいのですが、差別主義者を演じる俳優さんたちも相当な覚悟が必要です。なぜなら役者として悪いイメージがつきますし、スパイク・リー監督作品に出るほどに人種差別への反対を示している方が、薄ら笑いをし、黒人をののしる演技をするというのは、相当堪えるということは容易に想像できます。
ニューヨークのブルックリンが舞台となる通常のスパイク・リー監督作品よりも、多くの白人が登場します。 米国統計局の2018年情報によれば、
https://www.census.gov/quickfacts/fact/table/co/PST045218
コロラド州の人種構成比は白人87%、ラティーノ22%、アフリカ系5%(複数申告できるため、合計は100%を超える)と、今でも黒人は少ないエリアのようです。
主役をサポートするのも白人警官(アダム・ドライバー)ですが、白人でもユダヤ人は別扱いされているところが、日本人にはやや分かりづらい背景です。
短いが重要な役という意味では、冒頭に白人至上主義を力説する博士を(『MI:6』にも出ていた)アレック・ボールドウィン、そして終盤の集会で演説するリーダーとして、「バナナ・ボート」歌手で社会活動家でもあるハリー・ベラフォンテが登場します。
好感度高い主役、JD
コロラド州で初の警官となったロン・ストールワースを演じたのが、デンゼル・ワシントンの息子であるジョン・デヴィッド・ワシントン(1984年生まれ)です。John Davidなので、ニックネームはJDだそうです。
初の映画出演が『マルコムX』(1992)で、ハーレムの学校の生徒役を務めたとありました。年齢的にも小学生役ですね。
スパイク・リー監督は『ドゥ・ザ・ライト・シング』のように自身で主役を務めたこともありましたが、冷静かつお茶目なキャラクターは、監督の自己投影のようにも思えます。
サスペンスの醍醐味
この作品は、黒人警察官と白人警察官が役割分担をして地下組織に潜入捜査をするのですが、かなりヒヤヒヤします。観客と劇中の一部のみが知っている事実が、ここでバレたらどうしよう?というヒヤヒヤです。しかも、敵は荒っぽいうえに、とても用心深く、ミスは許されません。
途中で、「いやいや、これ嘘でしょー」「声でバレちゃうよね」「何も黒人が絡む必要ないのに…」と思うのですが、これが実話だったというから、驚きです。
ストールワース氏ご本人のウェブサイトもあるのですが、公務を2005年に引退後、ユタ州のコロンビア・カレッジで刑事司法の学位を2007年に取得(出典)というから、やはりただ者ではありませんね。写真は、警察官当時のものです。
現在、ストールワース氏は御年65歳、まさにスパイク・リー監督と同世代。
監督の伝えたいこと
この作品の舞台となった1970年代から40年が過ぎた今、人種差別にまつわる状況はどう変わっているでしょうか。
こういう差別はまだ終わっていないという事実を突きつけるかのごとく、現在の映像が流れます。2017年の市民デモでは差別を受けている人だけでなく、その趣旨に賛同しデモに参加した方の中から犠牲が出ています。この時命を落としたのは、若い白人女性でした。
トランプ政権においては、国籍、人種、性別などを理由としたあからさまな差別や差別的発言が見られます。
常におかしいと思うことをおかしいと言い続ける、スパイク・リー監督の主張に感服しつつ、良質なエンターテインメントとして楽しめる作品です。
Right On!