フラットな視点で切り取った、厳しめの現実『ノマドランド』(2020)
こんにちは、映画ひと言ライターのJunkoです!
フランシス・マクドーマンド主演ということだけで観に行くと決めた、2021年3月26日公開の『ノマドランド』。
不思議な映画でした。
見終わって1週間ほど経ちますが、それでも言葉にするのが難しい。私の中で、すぐに言葉にならない作品は、良作の基準の一つになっているかもしれません。
『ノマドランド』へのひと言
絞り出すとしたら… こんな感じです。
自分の見たい世の中を、切り取る。
人間はとかく、自分の人生に納得感を得たいと思っています。
なぜ車中生活? 日本だと、キャンピングカーやトレーラーハウスは、少し憧れのイメージかもしれません。しかしアメリカ(少なくとも、本作品)では、家を所有することができない人が住むところとして、車が登場します。主人公が寝泊まりする改造ワゴン車も、ここで寝たら足が十分に伸ばせない、エコノミー症候群が心配されるスペースであり、本を読むにも暗すぎて、すぐに嫌になるであろう明るさのライトです。車内では立ちあがることもできず、トイレは大自然の中で、もしくはバケツで用を足し、雪が降れば車内でも凍える寒さ。身一つの中高年には、堪える環境です。
クロエ・ジャオ監督の編み出す世界は、淡々としています。ノマド(放浪民)たちを切り捨てもしないし、極度に寄り添ったりもしていない。だからお涙ちょうだいでも、政権批判でも、グローバリズム万歳でもない。フランシス・マクドーマンドの演じる主人公ファーンは、オン・ザ・ロードでいろいろな生き方を経験します。しかし、ファーンは60歳を超えている設定。若くはないのでそれほど成長するとも限らず、逆に固執して意地の張り合いになることも。
原作が気になった方は、こちらをどうぞ。
地の時代から風の時代へ
ちょうど星占いの世界でも、言い尽くし聞き飽きた感のあるこの話題ですが、風の時代は口を開けていれば情報が入ってきて楽、と言うことは一切ありません。むしろ選別する必要があり、大変です。一つの場所にい続けることでお金が定期的に入ってくることはなく、むしろギグワーカーのように単発で非正規の雇用、働きたくても続けることができず、次の仕事を求めて彷徨うことになります。まさに、荒っぽい風なのです。
これは、単純化するならば1960年代のヒッピーのように、生産活動を放棄して”楽園”に逃避した人たちとは違います。自分が選んだ自由ではないかもしれない、むしろ定住しないことでの制限。ファーンの脳内では「自分がそれを選択した」となっていますし、(第三者から見ると)そのポジティブな自己認識こそがこれまでの強いアメリカを作ってきたと思います。
作品の中に、トレーラーが集まる更地で「不用品交換」ステーションみたいな場所があり、それぞれいらないものを持ち寄り、自分のほしいものをもらっていくシーンがあります。食器やトレー、傘の骨のようなガラクタが並び、それを想像力を働かせて使う場面を想像しながらもらっていく姿は、まさに地の時代の名残と言うか、物質に拠り所を求める私たちの習性のようにも思えます。
そして話の展開としては、定住する選択肢も見え隠れしたりして、やはり正解は分からないまま。
芸歴の長いフランシス・マクドーマンド
フランシス・マクドーマンドさん、どの作品で観たかパッと思い出せないのに、印象には残っている感じ。コーエン兄弟監督の『ファーゴ』と聞いて、あ!と思いました。そして、ケイト・ハドソン推しの私としては『あの頃ペニー・レインと』も好きな作品なのですが、こちらのマクドーマンドさんはパッと思い出せません。もう一度観てみたくなりました。2018年『犬ヶ島』(Isle of Dogs)では、日本とも少し接点があったようですね!
1957年生まれですから、今63歳。大学で演劇を学んだマクドーマンドさんは、知性としても直感としても演技スキルを備えている方だと思います。
ほぼ実年齢と同じ役柄を演じていますが、60代が主人公なのは設定としてスゴイですよね。日本だと大竹しのぶさんクラス(1957年生まれ)。人生の酸いも甘いも知る女性が、等身大で何を伝えてくれるんでしょうか。
ベネチア、トロントと信頼できる2つの映画祭で受賞しており、アカデミー賞もノミネート。ぜひご自分の目で見て、味わって下さい。
『ノマドランド』でマクドーマンドが体現する、立ち止まらずに前進する強さと弱さが、大好きだ!