法こそが人を守る、『モーリタニアン 黒塗りの記録』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
私はジョディ・フォスターが大好きで、本作を観ることを決めました。彼女の10代、20代が役者として強烈すぎて、強くも弱くもある賢い女性、というイメージが定着してしまったことから、30代以降の作品はあまり記憶に残っていません。今回は60歳のジョディが、『モーリタニアン 黒塗りの記録』(2021)という社会派作品での中心人物の一人です。どんな姿が見られるでしょうか。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』へのひと言
アメリカの法と良心。
アメリカで9.11の悲劇が起こった時、愛国心は最高潮に達しました。多民族国家であっても、報復という言葉で、国は一つにまとまります。
その流れで、関係ない無実の人が拘束されたというのが、グアンタナモ収容所で起きたことです。グアンタナモ(Guantánamo)という名前がいかにもスペイン語圏の地名、キューバです。(劇中では”Gitmo”と言っていました。)
本作では、ナンシー・ホランダー弁護士(ジョディ・フォスター)、そしてナンシーと真逆の主張をするはずだったスチュアート・カウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が、自分の信じたことを貫き被告の無実を訴えます。
罪人の命など価値なしとされる風潮のなかで、彼らは裏切り者扱い。人は「いい人」なだけで戦えるのでしょうか。いえ、そこには法律があります。法に基づいて人は裁かれるのです。
アメリカで法廷ドラマが人気なように、また日常生活でも法廷が身近であるように、法への信頼は絶大です。戦う相手がアメリカ政府であっても。
政府を相手に訴えること、しかも過去のことではなく現在進行中の件で訴えるのは、日本だとどのくらい起こり得るでしょうか。また、人道的な立場を貫く時、法の重みがどれだけ社会に共有されているでしょうか。この2つは日本とちがう点であり、かつアメリカの強みでもあると感じました。
すごい人たちの裏側
ここからは、主人公ナンシー・ホランダー弁護士と、同じチームだったテリー・ダンカン弁護士(シャイリーン・ウッドリー)を観て感じたことですが、花形職業こそ泥くさい、は本当だな、と。
「野球選手ばかりがモテるな」「社長はお金持ちでいいよな」「〜〜さんばかりがチヤホヤされてずるい」のような羨望が転じた妬みは、日常でもお馴染みの感情です。
でもね、ナンシー弁護士の前に積まれた段ボールの数を見たでしょうか。黒塗りされた書類、書類、また書類。弁護士は紛れもなく高給取りで、賢い人がなれる職業ですが、こういった書類のすべてを検証して、法と照らし合わせていくのは、地味の極みです。しかも時間が限られていて、失敗は許されない。お金をいただいてもやりたくないという反応が本音かと思います。
私たちは、社会的に注目を浴びる人たちのどこまでを見ることができているでしょうか。他人は他人、自分は自分の道を頑張る、という真実に気づけるまで、時間がかかることもあります。いわゆる「かっこいい」法廷のシーンはごくわずかで、ナンシー弁護士は大量の書類と格闘したり、何度もグアンタナモ収容所に通ったりと、自分の信念を貫き被告のために動くプロとしての姿に、心打たれます。
憎まない主人公の明るさと強さ
タハール・ラヒムが演じたモーリタニアの男、モハメドゥ・ウルド・スラヒさんは実在する人物です。この方のコメントには、神が宿っていると感じました。
非人道的な扱いを受けながらも、スラヒさんは「米政府への怒りや恨みは(自分の心から)なくしたい」と話す。憎しみに支配されず「自分が真に自由になるため」だという。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/138964
報復という考え方とは真逆です。自分が受けた苦しみを、許せるというのは、本当に愛に溢れた方なのでしょう。彼の手記は、ベストセラーになりました。
『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』(2015)
フランスの俳優、タハール・ラヒムを起用したのも、ぴったりだったと思います。雰囲気似ている!
そして民間弁護士とクライアントのスチュアート・カウチ中佐も、同じくらい英雄です。どうも軍というと作戦本部や兵士ばかりが思い浮かびますが、カウチ中佐のように法学部卒のエリートも必要ですね。
他にもある虐待
この話題、どこかで見た覚えがあると思ったら、『カード・カウンター』でした。イラクのアブグレイブ収容所の話を扱っていました
日本で見られるニュースは限られていますから、時にはこのように史実に基づいた劇映画で、世の中の出来事に目を向けることもあります。本作は、スコットランドのケヴィン・マクドナルド監督作品。この作品を撮ろうと決めた志(こころざし)にも、敬意を表します。