人生はカードより複雑、『カード・カウンター』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

カード・カウンター』、2021年の作品です。日本でやっと2023年6月16日公開、その週末は通の皆さんがこぞって観にいらしていました。

製作総指揮がマーティン・スコセッシとのことで、『タクシー・ドライバー』の長年のファンも多いかもしれません。『タクシー・ドライバー』では脚本を担当した、ポール・シュレイダー監督です。

では早速、ひと言へ参りましょう。

『カード・カウンター』へのひと言

カードの話と思ったら大まちがい。

ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが主演の『スティング』(1973)、メル・ギブソンとジョディ・フォスターが出ていた『マーヴェリック』(1994)など、カードゲームを主題とした映画は多くあります。大儲けしたり大損したりと振り回される主人公を描き、観客も同じようにドキドキハラハラします。私のお気に入りは、デヴィッド・マメット監督の『スリル・オブ・ゲーム』(House of Games、1987)。

今回、『カード・カウンター』とは、賭博場(カジノ)でカードをカウントする人、つまり絵柄を記憶して勝率を頭で割り出してしまう人のこと。主人公が賭博場を渡り歩いて大儲けするのかな、誰かを打ち負かすストーリーかな、と観客は予想します。しかし本当は、主人公が刑に服すことによりカード・カウンティングが上手くなったこと、そして人生が狂ったことへの復讐劇がシナリオ。

『タクシー・ドライバー』はもう少しサイコパスみたいな主人公であり、誰かに復讐する理由には共感しづらいものがありました。一方で、『カード・カウンター』で主人公が恨む人物は、恨む理由が明確にあり、必然だということが話のベースとなっています。

歴史的な背景は、「アブグレイブ刑務所の捕虜虐待」について情報を得ていただきたいと思います。

名キャストが演じる「心の旅」

今回、主役を演じるオスカー・アイザックの好演を、賞賛している人は多いようです。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)ですでに人気の役者さんとのことですが、こんなに渋い作品に出ることは想像できなかったのではないでしょうか。

元兵士の役ですから、胸板も二の腕もムキムキ。スーツもピチピチ。そして目が空(うつろ)。カードルームが暗いことも手伝って、画面からは表情すら読み取りづらいです。

兵士は心理的ストレスに長く苦しむと言われますが、そんなストレス下や服役の年月を生き抜いた現在、まるでゴーストのような存在感。ある男性と、ある女性との出会いをきっかけに、彼の人生にふたたび目的が宿ります。人間らしさを引き出されるというか、良心を感じるというか。スイッチが入り、凄みが出ます。

その男性と女性が、タイ・シェリダンティファニー・ハディッシュ。タイ・シェリダンは若くてもろい存在、過去作品『ナイト・ウォッチャ―』なども観てみたいものです。ティファニー・ハディッシュはファム・ファタール(魔性の女)というほどではないものの、もしかしたらトランスセクシュアルかもという印象もあり、掴みどころのない存在です。(『クライング・ゲーム』を思い出していました、ごめんなさい。)

そして教官役のウィレム・デフォーいぶし銀の存在。ポール・シュレイダー監督の『ライト・スリーパー』(1992)で主演を飾りましたね。かつてはシュレイダーの分身として演じたかもしれませんが、今回は名脇役です。

サスペンスのお約束でしょうか、作品の8割まで来たところで、「えーーーーー!!!」という展開があります。クライマックスはもうこちらの心臓もドキドキ。

最後は救いがあるのか? 私はあると思っていますが、ぜひ作品をご覧いただきたいと思います。

映像なのに、書いている

映画ですから、もちろん視聴覚的に悲惨なシーンもあります。しかし、主人公がノートにずっと書き綴っていることが印象的。

本作は、ロベール・ブレッソン監督から影響を受けたと公言しているシュレイダー監督が、1951年の作品『田舎司祭の日記』の司祭を模した主人公を描いたそうです(出典)。

書くということが、主人公にとって「黙想」(contemplation)にも癒しにもなっている気がします。ストーリーを追うのに集中していたため、その目線でもう一度観たいな、というのが正直なところ。監督も脚本家の肩書きを持っていますし、その前に映画評論家だったのですから、書くという行為に思い入れもあるかもしれませんね。

本作は、『魂のゆくえ』(2017)『Master Gardener』(2022、熟練した庭師という感じでしょうか)と合わせてゆるく三部作となっているようです。『魂のゆくえ』『Master Gardener』も、主人公は男性で、寡黙そうな印象。ぜひこれらも拝見したいです。

本当に、シュレイダー監督から目が離せません!!!

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Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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