定期的に観返したい唯一無二の傑作『タクシー・ドライバー』(1976)
書くまでもないのですが、最近TBS「1番だけが知っているSP 洗脳…暗殺…究極の嫉妬…衝撃!世界の恋愛事件簿SP!」再現ドラマで見てしまったため、久しぶりに観てしまいました。マーティン・スコセッシ(スコシーゼ)監督の1976年作品、『タクシー・ドライバー』です。
再現ドラマでは、1981年に起きたレーガン大統領暗殺未遂事件で、犯人が『タクシー・ドライバー』を繰り返し見てジョディ・フォスターのストーカーとなってしまい、フォスターの気を引くためにはと考えた結果、劇中では成功しなかった政治家への襲撃を試みたという、実際にあった事件です。
40年以上前の名作なので、あらすじには触れますが、観た方にも観ていない方も、作品に触れるきっかけを作れたらと思います。
ハマり過ぎのキャスト
まず、映画公開から40周年をお祝いしたトライベッカ映画祭2016(ニューヨーク)での映像をご紹介します。
左から、シビル・シェパード、ロバート・デ・ニーロ、マーティン・スコセッシ監督、ジョディ・フォスター、そしてハーヴェイ・カイテルです。
主人公のトラビスは、言うまでもなくロバート・デ・ニーロ。主に夜のシフトのタクシー運転手として職を得ますが、不眠症。ベトナム戦争が原因ということで、いわゆる戦争の傷あと的なメッセージも見え隠れします。
そして、主人公が議員暗殺計画を企てるのですが、なぜか髪形をモヒカンにするのが滑稽すぎます。目立ってはいけないのに、ものすごく目立つ髪形。すでにイカレている感じです。
そして、トラビスが恋するのがベッツィー(シビル・シェパード)です。典型的な美人ですね。最初に登場するとき巻き髪に白いワンピース、スロー・モーションが加わり、ザ・高嶺の花。次期大統領候補の議員事務所で働きます。
トラビスは海兵隊出のタクシー・ドライバーなので、ベッツィーを誘い出すときはワインレッドのビロードのジャケットを羽織り、選挙事務所へ向かいます。
ジョディ・フォスターは、撮影当時12歳ということで、アカデミー助演女優賞ノミネートでも話題になりました。すでに子役として現場に立っていたため、売春婦の役は演じる側よりも見る側の方がインパクトがあったのでは、と先ほどのインタビューで話しています。
私は彼女の劇中の、アイリスという名前がすごく好きでした。ジョディのクールで知的な美しさは、長い間私の憧れでもあります。
そしてハーヴェイ・カイテルです。長髪のポン引きという役柄、しかも名前がスポーツ(Sports)というので、すでに笑ってしまいますが、この名脇役なら安心です。私のお気に入りは『スモーク』(1995)なので、それについてはまた書きます。
パロディになったデニーロの名ゼリフ
“You talking to me?” あまりにも有名なセリフで、パロディも多いシーンです。
先ほどのインタビューで、「タクシー・ドライバーを何についての映画と形容するか、1~2語で」という質問に対し、監督は「Loneliness(孤独、寂しさ)」と答えました。そう、トラビスが自分自身を追い詰めていく様子は、すごく物悲しいのです。
このシーンは、撮影クランクアップが延びてしまい、キャストもスタッフもギリギリの中で撮ったもので、セリフは即興とのことです。計算されていないからの名シーンでしょうか。
ポール・シュレイダーという脚本家
映画というのは監督の功績が大きい媒体だと思いますが、脚本家のポール・シュレイダー氏にも言及しなければなりません。
トロント・スター(2005)の取材によれば、『タクシー・ドライバー』はシュレイダーの自伝による部分が大きいようです。ニューヨーク(NYC)での暮らしで不眠症に陥り、24時間開いているという理由で、ポルノを扱う映画館や本屋に通っていたこと、自分の車に数週間寝泊まりすることもあったこと、緊急入院した際に看護師と話して、「あ、オレ数週間誰とも話してなかった…」と気づいたことも。その時、都市をさまよう鉄の塊はまるで棺桶のようだ、とのことで、タクシーを孤独の比喩として結びつけました。
『タクシー・ドライバー』の後、『アメリカン・ジゴロ』(1980、リチャード・ギア主演)『ライト・スリーパー』(1992、ウィレム・デフォー主演)『ザ・ウォーカー』(2007、ウッディ・ハリルソン主演)を含めて4部作と言われています。うち3つの作品を監督したシュレーダー氏の中では、主人公は同一人物なのだそうです。
『アメリカン・ジゴロ』のリチャード・ギアは観ていないのですが、ウィレム・デフォーも、ウッディ・ハリルソンも、エッジを演じることのできる俳優。普通とクレイジーの境界ギリギリを生きている、それがシリーズの大きなテーマかもしれません。
不眠症者の闇の行き着く先が“イイ人”
シュレーダーの脚本で面白かったのが、トラビスはギャングの抗争に巻き込まれ命を落とす、のではなく、少女を助けたヒーローとして崇められることです。この映画の、皮肉なエンディングです。
しかしシュレーダー氏は、映画30周年で残したコメンタリーでは、「トラビスは次はヒーローにはならない」つまり彼が善人になるという可能性は否定し、また「映画はふり出しに戻る」とも示唆しています。批評家たちはこの作品のエンディングを大絶賛しましたが、観る者の想像に任せるいわゆるオープン・エンディングの手法を取っています。
他にも音楽や撮影など、特筆すべきところはたくさんあり、だからカンヌ映画祭でもパルムドール、アカデミーでは最優秀作品賞も受賞したのでしょう。称賛し足りないのが『タクシー・ドライバー』なのです。
P.S. Amazonプライムでも観られます。