計算し尽くされたちょうどよさ、『ARGYLLE/アーガイル』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
3月はアカデミー賞の発表がありますが、作品群はまだ日本に到着しておらず、見たい作品が少ないこともあります。そんな中、サスペンス好きな私としては『ARGYLLE/アーガイル』(2024)に挑戦したいと思い、足を運びました。結果、大正解。
『ARGYLLE/アーガイル』へのひと言
全部、ちょうどいい。
監督は、平均して点が取れる秀才。ですから、ひと握りの人に溺愛されるよりも、8割の人が面白いという作品が作れる。見事です。
まずヒーローたち。ポスターの中心にいるのは、主役ではありません。
私の印象では、本作はブライス・ダラス・ハワード(エリー役)と、サム・ロックウェル(エイデン役)が主人公です。この二人は、ポスターだと左から3番目と、右から3番目。
このエリーとエイデンの普通さが、ちょうどいい! もちろんそれぞれに優れた俳優さんですが、ブライス・ダラス・ハワードは少し世間とズレた小説家、愛猫家をよく演じているし、サム・ロックウェルも50代半ばなのに30代くらいの「いい人」を演じている。スリムほど痩せていない女性だし、高身長とは言えない男性。正直、主役よりも脇役のオファーが来そうなお二人で、普通さが増していて、親近感が湧きます。
これが、ポスター中央のヘンリー・カヴィル(アーガイル役)やデュア・リパ(ルグランジェ役)の物語だったら、007の美男美女を焼き直しというか、まぁ平凡な映画になってしまうかと。
アーガイルは小説家エリーが書く小説の主人公なわけですが、このアーガイルも、北斗の拳にしか見えないヘアスタイルで、個人的にはツボでした。アーガイルはフィギュアにもなっていますから、わざと髪を立てて、デフォルメしているとは思います。
物語も「ちょうどいい」
物語は、難しすぎると観客が置いてきぼりになるので、エンタメ映画には向いていません。
本作は、現実とスパイ小説を行き来するので、多少頭を使います。主人公はスパイなの? この人は味方なの? 本当の親子じゃないの? と、疑問がたくさん湧く。でも、頭を使いすぎないところで止めているのがミソです。エリーがスパイじゃないか、という疑いに「アーガイル」という名前を関連させてくるところも、よくできている。
そして、ジャンルもクロスしています。スパイ映画なので一義的にはサスペンスと言っていいと思いますが、アクションでもあり、ロマンスもあり、ラストは、ごめんなさい、コメディです。
音楽もいいですよ。特に、“Electric Energy” “Do You Wanna Funk?” が軽快でもあり、チャラくもある。こういった音楽も含めて、監督が観客を園内周遊トレインに乗せちゃう、こちらも乗っちゃう、的な心地よさがあります。サウンドトラックの解説は、こちらの記事をご紹介したいと思います。(映画『ARGYLLE/アーガイル』に登場する楽曲を紹介)
突き抜けた天才は、自分のやりたい方を選ぶ一方で、秀才は多くの観客のペースを捕まえたと言えましょう。監督の『キングスマン』でも同じことを感じたので、本当にいい塩梅で攻めていました。最後には次作品の紹介と、抜かりなく。
リアルでもCGでも、品質の高いものはお客さんの満足度につながるんだなと思った次第です。とにかくお金がかかっていて、クリストファー・ノーラン監督の顔がチラつきましたが、イギリスの監督陣の層は厚いですね。なんでもガイ・リッチー監督の敏腕プロデューサーだったそうですから、この業界を知り尽くした監督の、良質な作品が観られたことに感謝します。次は『キングスマン』をレビューします!