フィルムマスターたちの初期青春映画3選

私の好きな映画の傾向として、ティーン(10代)が主人公の作品というのが一つ挙げられます。人間として粗削りであり、体もこころもアンバランスでギクシャクしているところが、誰でも通る道だからこそ面白く、共感を覚えるからです。

とは言え、好きな作品をお伝えするだけでは工夫が足りないので、「え、この監督がこんなの撮ってたの?」と思える、フィルモグラフィーでも初期のものをセレクトしてみました。

アルフォンソ・キュアロン監督『天国の口、終りの楽園。』(2001)

メキシコを代表するキュアロン監督がなぜ撮ったか分からない、しかし有名なのは『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004、シリーズ第3作)です。その前に撮ったのがこの『天国の口、終りの楽園。』で、2人の少年と、年上の既婚女性が旅をする物語です。ギャガの配給で、私は当時、恵比寿ガーデンシネマで見ました!

作品の楽しみの一つは、同じくメキシコの誇りである俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルが主演していること。1978年生まれのガエルは、公開当時22~23歳だったと思われますが、劇中は17歳の高校生を演じます。

もう一人の少年はディエゴ・ルナですが、二人はプライベートで幼馴染ということもあり、道中も息の合ったやり取りを見せます。そんな親友なのに、見栄を張りあい、つまらないことで仲たがいをする。そして、あんなに気の合った親友だったのに、進学するとまるで他人のように、時が過ぎるところもリアルです。

「天国の口」はビーチの名前で、ここを目的地として行けども行けども、という焦燥感が、旅の雰囲気にあふれ出ています。「天国の口」を邦題の一部にしたのはよかったですが、タイトルから集客するには大変な名前でしたね(原題とも異なります)。

ラッセ・ハルストレム監督『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985)

スウェーデンの監督です。この監督がアメリカで撮った『ギルバート・グレイプ』(1993)も大好きなのですが、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』は長編6作目。その後ハリウッドに進出し『ショコラ』や『HACHI』を発表していくハルストレム監督ですが、こちらは国産というか、サイズ感が慎ましく、好感が持てます。作品を流れるピアノの響きもやさしいです。

『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』という名前は誤解を招くほどに、この作品はある少年が、自分の日常生活範囲から出て、ある少女と会う話です。この少年の頭の中は宇宙へと広がり、そして母親との回想シーンもあり、少年を通して時間も空間も行き来するところが素晴らしい。

この少年、少女ともに自然でリアルな演技なのですが、特に女の子が、第二次性徴の始まる前の、男か女か分からない絶妙な設定です。本当に不器用だけれど、等身大で生きるイングマルに寄り添いたくなる、温かい作品です。

日本ではフランス映画社の配給でした。フランス映画社は主に1980年代、世界の良質な作品を多数扱っており、ミニシアター系で見てきた映画は大体「BOW(best of world)シリーズ」というフランス映画社のマークがついていました。『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』も戸田奈津子さん字幕でしたが、当時は「戸田奈津子さんスウェーデン語もできるんだ!」と本気で思っていた私です。

http://cinema.mond.jp/bow/

フランソワ・トリュフォー監督『大人は判ってくれない』(1959)

本作品は、映画学でも必ず教科書的に通り、1950年代の仏ヌーヴェル・ヴァーグ(ニューウェーブ)運動で語られます。映画が新しい手法を目指した時期、大きなスタジオカメラに対して、小型のハンドヘルドカメラが登場し、より「手ブレ」する荒い動きが躍動感となって、作品に影響を与えました。

これがトリュフォー監督の長編第1作というから、驚きます。本作品も、日本ではフランス映画社配給で、私は池袋の文芸坐で見た記憶があります。

https://www.amazon.com/400-Blows-English-Subtitled/dp/B002QWDG4W

主人公アントワーヌ・ドワネル(12歳)を演じたのが、ジャン=ピエール・レオで、1959年当時15歳だったと思われます。子役の演技は通常見ていられませんが、まるで監督の少年時代生き写しのように演じ、その後ドワネルものとしてシリーズ化されます。

https://tcf.ua.edu/Classes/Jbutler/T340/Leaud.jpg

12歳は、言ってしまえば子どもなんです。先生に嘘をついて母親を怒らせたり、遊園地の遊具に興じたり、「女性と関係をもったことがあるか」という質問に茶目っ気たっぷりに笑ってみせたり。あまりに有名なエンディングでは、海まで走っていくのですが、これは大人になるもがきのプロセスなのでしょうか。

この作品の素晴らしさはいくつもあるのですが、「青春映画」の括りで言うならば、ドキュメンタリーを見ているかのようなリアリズムと、映画という媒体も反抗期であったという、映像の瑞々しさです。本作は好きすぎて、私の総合ランキング1位です。

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

おすすめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です