予習するかしないか決めて行く、『犬王』(2021)
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
森山未來さんが好きという理由だけで(あと漫画家の松本大洋さんも好き!)、予習ゼロで足を運んだ『犬王』(2021)。日本史に極めて弱く、犬王の意味も知らない私が観た結果…。
『犬王』へのひと言
二択をお示しします。
予習してから行くか、ふんどしロックとして観るか。
どうも既視感があったのは、多くの方が書いておられるようにクイーンを彷彿とさせるのです。ズンズンパ、ズンズンパ。完全に持っていかれたからこそ、汗のほとばしる感じや会場の熱気を求めてしまい、アニメに描ききれない物足りなさを感じました。
ベネチア国際映画祭という世界三大映画祭の一つにワールドプレミアした戦略を考えると、クイーンに持っていかれないためにもう少し工夫ができたのでは、というのが私の感想。例えば独特の摺り足や、ヨナ抜き音階など、明らかに西洋の規範から外れるもの。もちろん空想の世界では何でもありなのですが、既存のものを壊すのが芸術だからこそ、よりクレイジーさを感じたかったです。
この3つを押さえて!
海外レビューサイト『Rotten Tomatoes』では、「語られるべきことは、何世代超えたとしても語られる」「他の長編アニメとは一線を画すもの」「ミュージカルのサイレンのような叫び」など、作品のメッセージ性や形式に高評価を示していました。
少なくともこれらレビューからは、純粋なミュージックビデオではなく、物語として鑑賞するというのが正統だったようです。私もその方向に進みたかったのですが、予習ゼロがたたりました。もちろんプロのレビューは作品解説を手にしているのでよいですが、日本の歴史を知らない人や、原作を読んでいない人も最低限の知識が必要だったのでは?と思い、鑑賞を終えてこの3つは必要という情報を、メモします。
- 鎌倉時代に栄え、壇ノ浦の戦いにより源家に敗れ滅亡した平家。それを記したのが「平家物語」。ちなみに平家蟹というのがあり、平家の恨みが込められた形相をしている。
- 「平家物語」は、口承文学として琵琶法師が語り継いだ。琵琶法師は人の名前ではなく、全盲で琵琶を弾く僧侶であり演者。→この演者が森山未來さん。
- 室町時代、道阿弥(どうあみ)もしくは犬王という猿楽(さるがく=能)の人気パフォーマーがいた。→この演者がアヴちゃん。
原作『平家物語 犬王の巻』を拝読していないため何とも言えないのですが、私は『犬王』で描きたかったのは無念ではないかと思いました。でも誰の無念かちょっと不明。平家? 琵琶法師? 犬王?
それとも友情を描きたかった?その可能性もあります。
多様性について考えてみた
拝見した2022年。盲目のアーティストと言えば辻井伸行さんの活躍がパッと思い浮かぶし、障害を抱えたアーティストや、アーティストが障害を克服すること、カミングアウトすることも日常となりました。
しかしこういった観念はここ数十年で大きく変わったことで、室町時代と比べることはできません。私の小さい頃(1970年代)ですら、「見せ物小屋」がまだあり、「小人」「へび女」などの名の下に障害をもった方々を、それこそ見せ物にしていた時代があったのです。
『犬王』の主人公であるお二人が、どのような偏見にさらされ、どれだけの制限を強いられて生活していたか、そこにもう少し違和感を持ちたかったです。
いや、江戸時代の銭湯が混浴だったように、もしかして室町時代の方が違いに対してオープンだったか? その可能性もありますけどね。
作品をあえて暗いトーンにする必要もないのかもしれません。ノンバイナリーなアヴちゃんが犬王を演じたことは、それ以外は考えられず、この作品を前向きで明るいものにしています。
劇場で見ることをオススメ
本作品は、部分的には映像と音楽を楽しむというミュージックビデオ的に見ることもできます。予習なしで、ふんどしロックとして捉えるならば、爆音で観るのが望ましいですね。
必ず大画面で、大音響で。
中盤に歌のシーンが多いですが、始まりと終わりはストーリーがあり、ミュージカル映画とも言い切れないです。結果足し算になってしまっており、引き算する勇気があってもよかった、という感想を添えます。
湯浅政明監督の作品は不勉強なので、機会を見つけて拝見したいです!
『犬王』公式:https://inuoh-anime.com/