苦手もあれば、気にいるところもあるだろう『TITANE/チタン』(2021)

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

ポール・T・アンダーソン監督のコメント、「この映画に身を任せよ。」が目に入り、見ようと決めた作品『TITANE/チタン』。2021年カンヌ映画祭での最高賞(パルムドール)を受賞しています。

P.T.アンダーソン&カンヌの2つから品質確約と思い、実は映画館に着くまで、どんな映画かはまったく情報がないまま行ってしまいました。劇場壁面のスチール写真を見て一瞬「暴力?サイファイ?」と焦ります。

私にとってとても難しい映画であり、サイトの「完全解析ページ」も読んで復習してみて… まだ難しいです。映画に何を求めるかでもあるし、作家の世界観というのもある。

『TITANE/チタン』へのひと言

この作品の一部分しか語れないのを承知で、試みてみます。

二項対立が、ますます一つになる。

ジュリア・デュクルノー監督の過去作品は拝見していませんでしたが、『TITANE/チタン』が女性監督作品というのは、初めは驚いてしまうと思います。

と言うのも、あまりにも痛みに満ちた、残酷なシーンが繰り広げられるから。私、このようなシーンは視界5%で臨みました。私も名作であれば頑張って見る作品はあるので、例えばピエル・パオロ・パゾリーニ監督作品に見られるような狂気を感じ取りました。

作品は、暴力加害=男性、暴力被害=女性、車=男性、車にはべる=女性、というような二項対立を、ガシガシと崩していきます。

ここがこの物語の威力で、例えば生と死、肉体と精神、人間と金属、若さと老い、愛することと愛されること、この辺りをぐちゃぐちゃに掻き回すのです。その意味で、観る者に考えさせる、いい映画。

映画理論でもよく言われたポストモダンの思想「脱構築」(いったん壊す、そして再構築する)でもあります。

ストーリーで持たせた一般性

例えば殺人鬼が出てくるようなホラーや、『ブレードランナー』のようなサイファイでは、ストーリー性は二の次、ということもあります。

しかし『TITANE/チタン』の特質すべきところは、ジャンルも混ぜこぜにして、観客を広げたところではないでしょうか。ボディーホラーがベースになっているように思いますが、クライム、サスペンス、ファミリー、ロマンスなどさまざまな要素をブレンドしています。これが、カンヌで最高賞を取った所以ではないかと思うくらいです。なぜなら、マニアにしかウケない作品は、カンヌに不向きだから。

私は、後述する二人の中心人物のやり取りは美しいと思いましたし、これだけ体が痛めつけられるような現実があったとしても、「愛の物語」だなと感じました。(THE RIVERでのリンドンさんへのインタビューでも、同じ意見だったようですね。)観客がどこに注目し、どこを引き寄せ、自分の体験や嗜好となぞり合わせるかは委ねられているからこそ、作品への満足度は上がっていきます。

私自身は、本作をサイファイ・ホラーだと思って見ていたので、アレクシアの体の「ある重大な秘密」から、地球外生物の誕生を想像してしまいました…。

よき女優の起用

アガト・ルセルさん演じるアレクシアは、スポーツカーの踊り子として、ライトの当たる中、妖艶に舞います。あまりに完璧なプロポーションで現世感がないというか、アンドロイドが動いている印象さえ覚えます。

(C) NEON

そしてこのクネクネセクシーから一転して、アレクシアは一才の女性らしさを消すという行為に転じます。つまり女性と男性の両方を演じることとなり、本当に見事。宝塚の男優さんレベルでは、務まらないのでは、と思ったけど、実は天海祐希さんとルックス似てますね。

驚くことに、アガト・ルセルさんは、女優というよりはジャーナリスト、モデルの経歴をお持ちです。刺繍のファッションブランド(Cheeky Boom)を持っており、インスタグラムからスカウト、というのも現代らしいです。

ルイ・ヴィトンにも出ていました

これまで雑誌編集長として女性アーティストの支援をするなど、ルセルさんの人生にも合致しており、「男/女だから」「男/女として」という制約のない領域で、活動されているイメージです。

少し外れますが、日本でもジェンダーレスなファッション・アイコンとなる菅田将暉さんのようにも感じました。

そしてよき俳優

アガト・ルセルさんが演者としてはほぼ新人ということもありますが、映画のクレジットに最初に出てくるのはヴァンサン・ランドンさんです(役名もヴァンサン)。行方不明の息子を今でも探している、消防団のリーダー。

アレクシアとヴァンサンのやり取りは、私の中では『レオン』に近く、ヴァンサンがどんどんジャン・レノに見えてきました。

ヴァンサンの働きかけにより、アレクシアの心が少しずつほどけていく様子、ここはヒューマンの要素が描かれていました。よくテレビで、警戒心の強い野良犬が人間のやさしさを知っていく様子がドキュメントされる、あんな感じ。それから、ヴァンサンがほろ酔いで踊るシーンも、好き。自己開示マックス!

左から、ルセルさん、デュクルノー監督、リンドンさんです。

https://commons.wikimedia.org/

正直、通向けと思いつつ、総合点が高いということは満場一致でしょう。監督の想像力と、制作チームへの敬意を払いたい作品であり、『TITANE/チタン』が大好きだ!

『TITANE/チタン』オフィシャル:https://gaga.ne.jp/titane/

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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