じわり感あふれる『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
数日寝かせて、じわりと振り返りたいタイプの映画に当たりました。
こんにちは、映画ひと言ライターのJunkoです! これ、たまに使うことにします。
私は有吉弘行さんの「あだな命名力」が大好きで、特に和田アキ子さんの「R&B(リズム&暴力)」が大好きです。相手への愛情や敬意が根底にあることが分かるひねり方に、いつも感服。そこで、今回観た『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019)に、作品へのひと言と、「映画ひと言ライター」という肩書きが降りてきました。
あ、でもひと言で言えること以外に、あふれてしまう部分もきっとあるので、お含み置きください。
ジョー・タルボット監督の長編デビュー作品です。
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』へのひと言
こういうことってないですか。高校生の時、Aくんのことが好きだったが、AくんはBさんと付き合うことになった。しかし友だちが、Aくんは私のロングヘアが好きだったんだよと教えてくれる。
こういう体験を、「あ、Aくんは私のこと好きだったんだ」と解釈するわけです。
ひと言は、これ。
違うと分かっていても、信じたいことがある
もう少しファミリー・ヒストリーに寄せるとしたら、こんな感じです。自分の祖母は裕福な家庭に生まれたものの、土地をだまし取られ、だました相手を訴えることもなくつつましく借家暮らしをしたとしましょう。
「祖母は裕福で、立派な人だった」
もちろんそうなのだと思いますが、事実の検証は難しい。というより、事実はむしろ知りたくないです。真実か脚色かは、ここでは関係ない。
主人公は観客とともに、これと似た経験をします。主演ジミー・フェイルズ氏の実体験に基づくそうですが、上の例よりも少し不利な物語であり、そのことが物悲しかったりします。
では、本作について2つ、おまけで書き留めますね。
サンダンスぽすぎる!
サンダンス映画祭は、1978年に始まったアメリカのユタ州の映画祭で、立ち上げに俳優のロバート・レッドフォード氏が関わっています。アメリカのインディペンデント映画の登竜門的存在で、ハリウッドとはちがった力強いラインアップが楽しめます。
アメリカのインディー系映画はスタジオの発展とともに諸説あるものの、アメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる1960年代後半~1980年代前半の作品群が、サンダンスとも大きく関係していると言えるでしょう。アメリカン・ニューシネマの皮切りは『俺たちに明日はない』(1967)と『明日に向かって撃て!』(レッドフォード出演、1969)、どちらも刹那的で反抗心に溢れた内容で、ハリウッド的ハッピーエンディングとは真逆なのです。ベトナム戦争と同時期で、世相を反映しているという見解もありました。
そんな非ハリウッド道を行き、サンダンスで紹介されたヒット作としては、『セックスと嘘とビデオテープ』(1989、スティーブン・ソダーバーグ監督)、『レザボア・ドッグス』(1992、クエンティン・タランティーノ監督)などが挙げられます。近年では、『君の名前で僕を呼んで』(2017)、『ザ・レポート』(2019)などでしょうか。日本で見る時は、シネマカリテやヒューマントラストシネマでかかっているような作品です。
説明が長くなりましたが、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』も、抑えた演技や、出来事はあるものの淡々とした進行が、サンダンスを意識して作っただろうことが伺えます。
映画祭に選ばれるためには、映画祭のテーストを理解して、エントリー期間を逆算して制作しなければなりません。このことを以前書いたブログはこちら。
ローカルのための記録としての作品
本作品のタルボット監督と主演ジミー・フェイルズ氏は、どちらもサンフランシスコ出身で幼なじみ。サンフランシスコと言えば土地の高騰が激しく、昔から住んでいた人が住めなくなったり、古いビルが取り壊されたりと、様変わりしているようです。
サンフランシスコは、約90万人都市。日本の地方都市で同規模だと、仙台市、浜松市、新潟市、北九州市あたりのようです。とは言えアメリカは日本の2倍の人口がいますから、感覚的には福岡市(150万人)、札幌市(200万人)の方が近いかもしれません。そこで生まれ育った若者が、地元の変わり様に焦り驚き、今の街を記録として残す必然性に駆られて映画を作る。十分ありそうな動機です。
一つ、文脈として伝わりづらいのは、主人公と親友がバスを待ったり、バスに乗ったりするシーン。アメリカにおいてバスを利用する人は、自家用車を所有しない人、つまり所得が高くないことを意味します。車社会ですから、バスは30分~1時間に1本はざら、通勤の足として使っても待ち時間のロスはあります。
音楽のインパクトも大きいですね。タイトルは「San Francisco (Be Sure to Wear Some Flowers In Your Hair)」(1967)。邦題は「花のサンフランシスコ」ですが、原題を直訳すると「サンフランシスコ(髪に花を挿してくるように)」って感じです。王家衛作品(『恋する惑星』『ブエノスアイレス』)を思わせる、ちょっとヘビロテ気味な使い方ですが、都市の名前が入った歌って残りますよね。
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』の虚構が好きだ! サンダンス向けのほろ苦さが好きだ!