観客は移り行く、『サン・セバスチャンへ、ようこそ』
こんにちは、 星読み☆映画ライターのJunkoです!
ウッディ・アレン監督の新作(と言っても2021年)と聞いて、『サン・セバスチャンへ、ようこそ』を観に行きました。原題を、「リフキンズ・フェスティバル」と言いますので、邦題がんばりましたね。主人公の高齢男性、リフキンのお祭りって感じでしょうか。
『サン・セバスチャンへ、ようこそ』へのひと言
映画も、世代交代。
本作品は、いつもながら情報なしで行ったのですが、劇場を検索していた中で、一つだけ目に入った数字がありました。それは、観客レビューです。
Google:56% のユーザーがこの映画を高く評価しました
映画.com:3.3/5
Filmarks:3.5/5
これは、ウッディ・アレン監督作品にしては低評価と言わざるを得ません。しかし、観ないことにはなぜかは語れません。なので、予定通り行ってきました。
モート・リフキン(ウォーレス・ショーン)はかつて大学で映画を教えていたとのことで、語らせたらヌーベルバーグを中心とした作品と監督が次々と出てきます。日本からは稲垣浩監督の『忠臣蔵』シリーズも出てきますが、周囲の人の失笑を買います。つまり、今の時代、そんなクラシックの映画作品に詳しい人は、煙たがられるというわけです。
映画は1890年代にこの世に登場し、130年ほど経っているでしょうか。その間に、ウッディ・アレン監督自身も、新しい発想を入れていき、映画は進化してきました。
2000年以降に大きかった変化としては、デジタル化による娯楽の多様化です。一様にテレビを見ていた、もしくは映画を見ていた時代が終わったからです。私はギリギリ大学時代にはインターネットがなかったですし、足繁く映画館に通うことをしていた世代です。
それが、ヌーベルバーグ時代の例えばジャン=リュック・ゴダール監督が亡くなったり(2022年)、ジャン=ポール・ベルモンドが亡くなったり(2021年)、存命の監督が少なくなってきている状況です。作家も観客も歳をとり、よい作品は歴史に残っていきますが、語られなければ忘れられていきます。以前は黒澤といえば明だった、でも今は黒沢清監督です。どうしても現役世代優先な感じがあります。
本作は、ウッディ・アレン監督なりに、コメディの中で映画史を取り上げた作品。映画史に親しんだ私にとっては、面白い作品となりました。
映画と引用
本作は、ヨーロッパの古典と言われる作品のパロディがいくつか、モノクロで出てきます。イングマール・ベルイマン監督の『第七の封印』、ゴダール監督の『勝手にしやがれ』、クロード・ルルーシュ監督の『男と女』など。しかし元ネタが分からないと楽しめないわけですから、評価が低くなってしまうのも当然です。
監督や作品に敬意を示して、オマージュと称して似せたシーンを入れることもありますね。先日観たヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』も、小津安二郎作品に似せたシーンがありました。過去の作品に衝撃を受けて、真似したという監督は、山ほどいます。しかしそれはフィルムスクールの話で、一般の人は鑑賞スタイルが異なります。ネットフリックス配信も同じように見れば、再生速度を変えることもある。消費のされ方が変わった今、古典に関心を持つ層は昔より減った、と言っていいでしょう。
映画も映画鑑賞も、映画評論も、絶滅危惧種になってしまったかもしれません。本作には、そういう自笑のトーンがありますね。
サン・セバスチャンに行きたくなった
映画祭は、もともと人を動かし経済を動かす一つの手法です。サン・セバスチャンも1953年からと、歴史のある映画祭。本作は2020年の映画祭で、上映されていました(Rifkin’s Festival)。
温暖な海岸都市は、カンヌを彷彿とさせるリゾート地です。作品中にもフランスの新鋭監督が出てきますが、サン・セバスチャンはフランスと国境を接する都市なんですね。可愛らしい街並みに、うっとりしました。映画を観るのもいいですが、外の日差しが最高です。本作にある中高年の可愛いラブロマンスも手伝って、サン・セバスチャンに好印象を持ちました。
監督の最新作『Coup de chance』(2023)も楽しみにしています!
映画公式サイト:https://longride.jp/rifkin/