『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をアラフィフが見た感想

クエンティン・タランティーノ監督は1963年生まれ、私より10歳上です。今回の映画の設定は1969年と言うことで、「1969年がこうだったら…」というおとぎ話なのですが、いつものように監督の好きなモノがたっぷり詰まった作品です。

もともと、「ワンス・アポン・ア・タイム…」と言えば、『アメリカ』の方だったんですよ。3時間49分もある1984年の作品で、ロバート・デ・ニーロ主演です。奇しくもセルジオ・レオーネ監督は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に登場する話題、マカロニ・ウェスタンに通じますね。

話を戻して、今は2019年。タランティーノ監督が描きたかった1969年は50年も前で、作品に出てくる俳優や監督で他界している方もいます。当然スマホもないので、劇中の撮影の間は本を読んでいたりして、可愛らしい。

私は1969年のことは分かりませんが、ブラッド・ピット(1963年生まれ)やレオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)とはともに映画を生きてきた世代。

そんな私が感じたことを、ネタばれにならないよう、3つ書き出してみました。

レオ vs. ブラピはブラピに軍配

この映画のクレジットで、先に出てくるのはディカプリオの方です。理由の一つは、劇中でTVドラマの俳優を演じるディカプリオのスタントマンを、ブラピが演じているからです。

実際には10歳ほど開きがありますし、ブラピとレオって顔や体格が似ていないので、設定にやや無理があります。ブラピは作品の中で鍛えたボディを披露しているので、レオよりも立派かもしれません。

私などは、いくらレオが『タイタニック』の主役を張った大物だとしても、『バスケットボール・ダイアリーズ』でマッチ棒みたいな少年だった頃のイメージがあり、どこか幼い印象を持っています。

劇中では、ブラピがヒッピー・コミュニティとの接触を持つところに大きな転換期があるので、実際はブラピの方に演技の見せどころがあったかな、と。

中年の危機あるある

レオは「このまま西部劇の悪役をずっと続けていて、いいんだろうか」「このシリーズが終わると、いつか干されるんじゃないか」という不安とともに、酒に溺れて生きています。俳優の場合は、若手の台頭は脅威に感じるでしょう。自分より芸歴の浅い人間がのし上がっていくことは、この世界ではつきものですものね。

日本では役職定年があり、定年までの数年間は給与も上がらなければ現役として頼りにもされないことも。仕事で一番楽しいのは30代から40代かもしれません。

一方のブラピはもうどこにも逃げない感が漂っており、「レオのスタント兼アシスタントがなくなれば、自分も職を失う」ことは分かっていながら、トレイラーで愛犬とともに、淡々と生活しています。

まだまだ現役のレオとブラピですが、この役のように心惑う時もあるのだろうか、と彼らの姿が役と重なります。

二人の家族構成などは明らかにされないものの、「中年の危機」というのは、子離れなど、家族の中の自分の役割の変化も含んでいます。

「中年の危機」を扱った名作、ウッディ・アレン監督の『私の中のもう一人の私』(ジーナ・ローランズ主演)も紹介しておきましょう。物語はヒロインがちょうど50歳を迎える設定です。

どこまでもオマージュ

登場人物は人生を振り返る一方で、タランティーノ監督が描きたかった映画というメディアに内省的な雰囲気は感じられず、まだイケイケドンドンのようです。テレビがライバルであり脅威だったことは言うまでもありませんが、1969年のアメリカ映画はまだまだ元気ですし、今見ても名作がたくさん。アル・パチーノ扮するプロデューサーのように、業界に鎮座している人もおり、白人男性の支配する業界であることは間違いないですね。喫煙率もハンパなく、アジア人(ブルース・リー)はやや滑稽に描かれています。監督の描きたかったのは「ポリティカル・コレクトから正反対の世界」だったようです(参考:Movie Walker朝日新聞)。

1997年に『ブギーナイツ』(ポール・トーマス・アンダーソン監督)という映画がありましたが、これも1970年代、主人公のエゴや葛藤を扱っており、雰囲気が似ていました。こちらは思いっきりポルノ映画(dirty movie)なのですが。

劇中、レオの隣の住人はロマン・ポランスキー監督です。そう、ちょうどヨーロッパで撮影中に、留守宅で妊婦である妻シャロン・テートさんが惨殺された、しかも人違いでという実話について基づいて作られています。私はポランスキー監督の『テス』(1979)が大好きなのですが、監督も相当美人好きですな…。

別に住まなくてもいいのに、ハリウッドに住居を構えることへのステータスがあり、今でも観光としてスターの豪邸を渡り歩くのがハリウッドの風物詩になっていますね。 タランティーノ監督の映画愛に加えて、ハリウッド愛が前面に出ている作品です。

ご自分の作品にまで言及しているかは分かりませんが、最後の決闘シーンは『キル・ビル』そのものです!リアリティでなくパロディを追求、失礼ながら笑ってしまいます。

エンドロールにも大切なシーンがあるので、最後まで見た方がいいですよ!タランティーノ監督9作目、宣言通り次の10作で最後になるのでしょうか…?

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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