映画『ハウス・ジャック・ビルト』について語るならば…

ラース・フォン・トリアー監督の最新作。観る必要があるかと聞かれると、多くの人にとっては「ない」かもしれません。監督の創造力を信じていないと、最後まで座っていられない作品です。配給してくれた会社にも感謝しています。

なぜ座っていられないかと言うと、人間の狂気に触れるからです。アメリカで実際にあった連続殺人事件をベースにしており、日常では理解できないシーンが展開されるからです。

ラースのファンとしてぜひ書いておきたい、見どころをご紹介。

厚い俳優陣

マット・ディロンについては前の記事で触れたのですが、主演クラスのイケメン俳優は悪役が回ってこずに役の幅に苦しむこともあるので、今回は念願叶ってか、殺人鬼の役です。相変わらずいい男ですが、上映時間中1ミリも同情できないところを見るに、好演しているのだと思います。

ブルーノ・ガンツは、心の声のような、主人公の想像上の役です。あの、ヴェンダース監督代表作『ベルリン・天使の詩』で知られ、残念ながら本作が遺作となりました。

ウマ・サーマンは予告編に登場するので、中心的な役かと期待するものの、実に限定的な役柄です。私の世代では『パルプ・フィクション』、30代の皆さんなら『キル・ビル』でお馴染みでしょうか。当時はイーサン・ホークとのビッグ・カップルも大好きでした。

そしてライリー・キーオは、エルビス・プレスリーの孫つまり、リサ・マリー・プレスリーの娘です。80年代で言うならばエリザベス・シューのような可愛らしさ。私は未見なのですが、2015年の『マッドマックス』に登場したことで知られているようです。

アメリカの田舎の若い女性のイノセンスさをよく表現していたと思います。『ブルーベルベット』に出ていたローラ・ダーンを思わせる、今で言うおバカキャラというか。

ラース監督らしさ

この作品は章立てになっており、私の記憶では『奇跡の海』(人生のベスト10入りしている)にも見られる構成です。

フォン・トリアー監督の本領発揮は、最後の30分。もともと155分という長さで、最初の2時間(の苦痛)は最後の30分のためにあるようなもの。

歴史、宗教画、監督の過去の映画、ごっちゃまぜで出てきます。ジャックの比でない歴史的記録映像もあれば、罪を洗い流すかのような大量の水も、 キリスト教をベースにした地獄のような絵面も、あります。そして何とも言えない終わり方ですが、むしろこれ以外に考えられない気もするのです。

観る者は監督の頭の中に狂気があると思いがちで、監督にとっては狂気は自分の外にありふれている、そんなふうに捉えているのではないでしょうか。

映画「ハウス・ジャック・ビルト」公式サイト 2019年6月14日公開

housejackbuilt.jp/

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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