表現者の掛け合わせ、『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
フレデリック・ワイズマンは教科書的に重要なドキュメンタリー監督です。新作は『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』(2023)。ミシュラン三つ星のフレンチレストランの日常を、オーナーシェフを中心に綴っています。
『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』へのひと言
料理人はアーティスト、である。
丸いお皿の上に表現される、シェフの世界観。
3代目ミッシェルさんも日本での修行経験がありますが、日本料理とフランス料理は、あきらかに別物だと感じます。
本作を見ていると、コース料理の一皿に工程のかさむ品々が乗っている。たとえば、野菜を桂むきする→下ゆでする→クルクルと巻き直す→コンソメ味をつける→皿の中心に盛り付ける→緑のアクセントを添える→別の野菜をパリパリに揚げておく→一緒にバターソースをかける→緑のソースを別途添える、のように、いくつもの工程を経て一品が完成します。絵画のように、最後の一筆まで細心の注意を払っています(素人的には、なくてもいいだろうという部分まで)。
そしてミッシェルさんチェックがあるので、容赦なく「はいやり直し!」もあります。料理人の感性が完全に再現されないと、料理としては失格ということです。
日本料理はどうしても「素材の味を活かす」文化があって、シンプルな味付けが好まれる。だから品数が多い、野菜を別々に炊く、など工程の多さは同じかもしれないが、和食でランチ500ユーロ相当(約8万円)はどこまで流行るかといったところ。
でも、私はさまざまな分野で活躍するアーティストを応援したいので、シェフの料理への思い入れや、感動を与えようとする気持ちに共感しました。
芸術という意味では、包丁の音をはじめとする音も、この作品の中でよいリズムを放っています。
ミッシェルもワイズマン監督もアーティスト(芸術家)と呼んでいいと思うのですが、ワイズマン監督はどちらかというとクラフトマン(職人)気質。表現者と表現者の出会い、そんなふうに拝見しました。
生産者への思い
これも料理人あるあるかな、と思ったのは、料理にこだわると食材にこだわるということです。当たり前かもしれませんが、生産者のところに足を運び、土を見たりします。
トロワグロまで人気店であれば、値段を気にしなくていいでしょうから、追求し放題。というのも、芸術家と似ていますね。資本があれば、実現できることが増える。
できるだけ自然に、というポリシーを持った生産者さんたちとのコラボでもある料理。お互いへのリスペクトが感じられ、また職業として成立していることへ尊敬の念を抱きます。
ドキュメンタリーという手法
ワイズマン監督のすごいところは、やはり押し付けがないこと。ドキュメンタリーはどうしても監督の伝えたい教訓が目立ち、主張のために映画を利用する場合があります。一方のワイズマンは、ただその場にある、いる。この技術には目を見張ります。被写体との関係性が作られているのかいないのか分かりませんが、日本には根付かないだろうと言われたこともあるくらいの透明人間的撮影。隠しカメラとも違うのです。
ただ、ワイズマンも時代の流れには勝てなかっただろうことは、カットの多さ。トーキングヘッドではなく、野菜の画、野菜の断面の画、そう言ったものが秒きざみに挟まれます。観客を飽きさせず惹きつける工夫のように、感じます。
実際、やや中だるみを感じる部分もありました。4時間の作品ですから、それは仕方ないですが、人の話が続くとこちらもアクションを求めてしまいます。
御歳94のワイズマン監督の、生涯現役を応援いたします。
今日はこの辺で。