曖昧にあふれる日本文化、『悪は存在しない』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下に観に行きましたが、封切りの翌週平日でほぼ満員でした。濱口熱を感じました!
ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した、濱口竜介監督の『悪は存在しない』(2023)です。
『悪は存在しない』へのひと言
ひと言で語られるのを嫌う作品。
環境保護と商業主義、都会と自然、定住者とよそ者、人間と動物、大人と子ども、生と死。二項対立の溢れるテーマで、決めつけたようなやり取りは一つもありません。
西洋の、もしくは一神教の観点から言うと、善悪の二項対立があって、勧善懲悪、悪者は裁かれるという世界観があります。ま、日本でも水戸黄門なんかはこちらに属すると思います。
一方で、極めて日本的、多神教的というか、調和を重んじる環境では、やはりジャッジメントやひとつの答えを出すことは避ける傾向にあります。強者も弱者もいない、そして、プロセス重視の合意形成なのです。
その意味で、日本文化をよく描写した作品とも言えるのです。
ラストシーンは、オープンエンディングそのものでした。解釈は観客に委ねられています。
クラシック音楽が合う森林
本作は、長野県水挽町(架空の地名)という森林に囲まれた町で、子どもが木の種類を当てながら通学・通園するような場所です。冬ともなると、葉が落ちて寒々とした風景が広がります。
そこに、バイオリンの音色はピッタリでした。石橋英子さんの音楽です。
勝手な発想ですが、弦楽器もピアノも木を使いますので、自然の荒々しさってクラシック音楽とピッタリだなと思ったりします。
カットで音楽が急に途切れるところは気になりましたが、石橋さんのライブパフォーマンス用の映像を濱口監督に依頼したという経緯もあり、音楽が圧倒的に主役級のシーンもあります。乾いた大自然の音色をお楽しみいただきたいです。
車の中のシーン
『ドライブ・マイ・カー』では車の中のシーンが特徴的でしたが、今回もそのカットがありました。
ただ、今回は小津安次郎作品のような360°カットでもなかったですし、乗車する複数の人間が孤立することも調和することもなく、淡々と場が進行していきます。
一方で、公民館のシーンもある程度の尺がありました。ここは、もしかしたら外のロケよりも予算を抑えられる時間だったかもしれませんが、やや演劇のような感じがしました。
まずはぜひ観ていただきたいです。ル・シネマでは、銀獅子賞のトロフィーが拝見できました!改めておめでとうございます!
映画公式サイト:https://aku.incline.life