憑依型主人公の人生をなぞる、『キリエのうた』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

2023年10月13日に公開された岩井俊二監督の新作、『キリエのうた』をやっと観に行くことができました。音楽映画とだけ聞いていましたが、事前知識ゼロで伺いました。

さっそく、ひと言に参りましょう。

『キリエのうた』へのひと言

巫女系、憑依型の主人公。好き嫌いが分かれる。

本作は主人公がアイナ・ジ・エンドさん、2023年6月に解散した「BiSH」のメンバーとのことです。インタビュー動画を見ても、本人そのままというか、演技よりは素を撮影したような感じに仕上がっています。

その中で、アイナさんの演じるキリエは高校生。学年で一人くらいいる色白で痩せ型巫女のようなルックスの子。このような憑依型ですと、男の影がまったく見えない方もいますが、キリエにはボーイフレンドがいます。ピュアながら、場の雰囲気を利用する、思わせぶりなことをする、距離が近い。悪気なく女を利用しているように見える一面もあります。

こういったタイプの女の子が、私は個人的に苦手なので、感情移入が難しかった。ただそれだけですが、力強い主人公です。歌うと別人になるような、憑依の仕方もします。

助演が全員よかった

アイナ・ジ・エンドさんになかなか馴染めませんでしたが、脇役が全員と言っていいほど素晴らしかったので、ご紹介したいです。

まず、子役の矢山花さん。キリエの妹を演じます。岩井監督の演出にも拠るところが大きいですが、自然な演技が引き出されていました。大人のフォークソングを歌うので、中高年観客にはグッときます。

キリエの恋人、松村北斗さんもよかった。SixTONESということすら知らずに観ていましたが、ダメ男っぷりが最高です。煮え切らなさ、中途半端感、流され感、おぼっちゃまくん、すべてが完璧でした。

広瀬すずさん。まず、広瀬すずさんと分からない風貌で登場するからビックリです。そして役柄にもビックリ。いい役をいただけたのですね。クレジットで一番最後に名前出てきたんじゃないかしら。彼女の透明感と、真面目さと、少し冷めたような感じが、役柄に合っていました。

黒木華さん。実は準主役的立ち位置ながら、なんとも地味。理由は、根本にあるラブストーリーとは無関係だからかな、と思われます。よって、黒木さんのいい意味での地味さが光っています。関西弁もほっこりします。

奥菜恵さん。スクリーンで会えて嬉しい。岩井監督ファンなら、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1993)を観ているはずです。もう30年前、奥菜さんも44歳。思春期の女子を撮らせたら右に出るものはいないという岩井監督に撮ってもらえたことは、女優として、また一人の人間としてみても、本当に有り難いことですね。

その他、顔を見れば名前が出てくる俳優さんが続き、かつ新しい世代の方もきちんと入っている。岩井監督のアップデート感、いつの時代も女の子をフレッシュに切り取る感覚は、見事だと感じました。

大震災を扱った作品

本作は、津波などのシーンが含まれることが事前予告されていました。

作品を観ていて、新海誠監督の『すずめの戸締まり』(2022)の実写版のような感覚も受けました。

実際の地震発生と、発生後に避難場所に集まるシーンが再現されていました。通常通り、津波に気をつけて生活していることや、高台に避難することなどが会話に上り、海岸線で暮らすことが日常の中にある、そんな風景でした。

人々の記憶から呼び起こされたシーンだと思いますが、私はこのような事実をニュースの文字や数字で知るだけでした。それを再現された映像で見ることができ、子どもの点呼やお迎えを行っていたり、お互い声をかけ合ったりしていた。人々の日常があることを確認でき、いつも通り生きた方々の尊厳に敬意を表したいと思いました。

178分は正直長かったですが、10数年という時を示すには必要な時間だったかもしれません。

『キリエのうた』公式サイト:https://kyrie-movie.com/

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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