主人公の人生をなぞるための時間、『黄色い繭の殻の中』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

第24回東京フィルメックスにお邪魔してきました。

今回は何とか1週間で5本観ますが、普通の生活をしていたら結構難しい。これが映画祭だと、1日2本、頑張れば3本観たりします。

コンペティション作品の一つ、ファム・ティエン・アン監督の『黄色い繭の殻の中』を鑑賞しました。

『黄色い繭の殻の中』へのひと言

人生には、時が経たないと分からないこともある。

本作品は178分です。最近ハリウッド映画でも3時間作品がよく見られ、「2倍速で再生されることを意識」なんてことも聞いたりします。

『黄色い繭の殻の中』は、そうではありません。決して先を急がず、主人公の1分は私たちの1分、沈黙もあれば空振り、遠回りもあります。朝靄から、夜の暗闇も共有します。ですから、見終わった時のずっしり感がある。

この作品の対極として思い出されたのが、クリストファー・ノーラン監督。とにかく詰め込み、10分ごろにハイライトが来て、アドレナリン出まくりな感じ。もちろんそれも好きですが、『黄色い繭の殻の中』はむしろ内省的で、人間の営みが丁寧に描かれています。

作品を見終わると、時間について考えている自分がいました。作品で大きな出来事が起こるのはもちろんですが、人間は時を経ながら、考えたり感じたり、考えが変わったり忘れたり迷ったりします。それがすべて作品の中で表現されていたのは、素晴らしかったです。

映像と音の美しさ

私たちの目で見る景色とカメラがとらえた景色はちがう前提で、ベトナムの田舎ってこんなに美しかったのかと思える風景の数々。そして動物や虫の声をはじめとする、多重音声が独特です。音はアンバランスで、都市の雑踏やらニワトリの鳴き声やらが容赦なく介入し、混乱します。

自分の外にある環境が圧倒的であり、登場人物の小ささが際立つ。そんなふうにも思えると、この作品のとてつもない威力を感じます。

QAで分かったこと

作品鑑賞後、ファム・ティエン・アン監督との20分ほどのQ&Aがありました。ロングショットや長回し、長老たちのセリフ、キリスト教の影響、など映画ファンからの質問が飛び交いました。

その中で、影響を受けた監督について聞かれると、アンドレイ・タルコフスキー監督、溝口健二監督らを挙げておられました。映画の歴史は120年ほど、先人の作品に影響されることは多々あると思いますが、黒澤明監督、小津安二郎監督すらも作品に触れる機会が減っている中で、溝口健二監督作品はいまだにこうやってコアかつプロなファンがいることを実感。ちなみに、溝口監督は長回しをしますがカメラが動きます。『黄色い繭の殻の中』はそのようなショットもありましたが、固定カメラも多用していたので、作品的に近い印象は受けませんでした。

改めて溝口作品にも触れたくなった一日でした。

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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