親の前では子である、『異人たち』と『異人たちとの夏』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
大林宣彦監督、山田太一氏原作の『異人たちの夏』(1988)は、わたしの邦画オールタイムベスト10に入っています。このリメイクが作られたので、観にいきました。
アンドリュー・ヘイ監督の『異人たち』(2023、All of Us Strangers)です。
しかも、『異人たち』を観たら『異人たちの夏』を観ずにおられず、大林監督ワールドにもハマりました。
では、早速ひと言に行きましょう。
『異人たち』へのひと言
親からの愛の渇望は、普遍的。
本作のあらすじをお伝えすると、40歳の主人公が12歳で死別した両親に会うことになります。観客の多くは12歳より上ですから、12歳の頃どんなふうに両親が見えていたか、あの頃の親に会えたらどんなふうに感じるか、を重ね合わせます。
しかも、事故死ですから、突然のお別れをしてから小さい体でどうその事実を受け止め続けたかを考えると、「親に愛されたかった、遊びたかった、甘えたかった」という思いが同時に溢れてきます。
頭で不自然かつ道理に外れると分かっているけれども、ある意味中毒性のある行為です。登場する当時の両親はおそらく30代でしょうから、40歳になった子どもは年上にも関わらず、子ども扱いされるところが、何とも微笑ましいのです。この無条件の愛は、どれだけ受け取っても十分ということはありません。親にとってはいつまでも子ども、というのも真実でしょう。
しかしこのポスター、怖いですね。写っているのは2人だけではありませんよ。
お盆に代わるもの
日本のお盆は夏(多くは8月)で、ご先祖様がこの世に戻ってくれる時期ですから、日本文化と馴染みが深い方は『異人たちとの夏』の背景が感覚的に分かるでしょう。アンドリュー・ヘイ監督が翻案(アダプテーション)した設定はいくつかあるのですが、そのうちの一つはお盆をどう変えたか、です。
ヘイ監督が選ばれた時期は、なるほどね、という感じでした。家族と過ごす時期、人の温かみやつながりを感じる時期です。
もう一つの翻案は、あらすじにあるとおり主人公の恋人の設定にあります。同性愛を取り扱っており、かつゲイへのステレオタイプである刹那的、快楽的なところを崩してきます。心が通った2人はとても美しいです。
同時に、同性愛に対する風当たりは主人公が12歳だった頃の方が強かったですね。主人公は、両親に受け入れられた感覚を持てたでしょうか。ぜひ作品をご覧下さい。
ラストが異なるのもいいですね。『異人たち』のラストは、日本語のおとぎ話にあるような感じでした。
風間杜夫さんが愛おしい!
『異人たちとの夏』では風間杜夫さん、『異人たち』ではアンドリュー・スコットさんが主人公で、脚本家を生業としています。改めて観た風間杜夫はよかったです!
まずくたびれ感が出ています。エンタメビジネスですから、スーツもカジュアルな色や素材を使っていて、少しヨレヨレです。
そして、恐れずに言えば、日本人に多いやや幼児体型です。風間さんのライバルとして永島敏行さんが出てきますが、彼は対照的に、肉体的に大人の男性という感じ。
やはり12歳で傷ついた心を持ち合わせた、くたびれ40歳を演じるのは、風間さんしかいなかったと思います。
アンドリュー・スコットさんは、正直少しカッコよすぎたかな。ゲイということを公言していなければ、「彼女いないんですか?」「ご結婚はまだ?」とよく聞かれそうな外見でしょう。心の葛藤や、空虚さ、寂しさをよく体現していらしたと思います。
改めてどちらも良作で、私は日本の作品ゆえに『異人たちとの夏』の方に思い入れがありますが、『異人たち』も本当に文化圏を超越して語りかけてくるものがありました。原作の「売れっ子脚本家」山田太一さんにも、心のうちを共有下さったことに、共感と敬意をお伝えします。
映画公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers