背伸びした少女の物語、『プリシラ』

こんにちは、映画☆星読みライターのJunkoです!

エルヴィス・プレスリーを知っている人なら、プリシラ・プレスリーのことも知っているでしょう。世界中の女性を敵に回したかもしれない、エルヴィスに寵愛された人物です。

だからこの映画を撮るのは難しい。一体何を焦点にするのか、と思うからです。でも、ソフィア・コッポラ監督なのですから『プリシラ』(2023)がフツーの映画であるはずがないと思い、観に行きました。

『プリシラ』へのひと言

つけまの分だけ、背伸びした。

エルヴィス・プレスリーの恋人そして妻のプリシラ(旧姓ボーリュー)ですが、コッポラ監督の手腕で女性視点の作品になっていたのが見事でした。

特に、コッポラ監督の得意分野と思われる思春期の少女、このど真ん中にいるのが14歳のプリシラです!

出会いはドイツ、24歳のエルヴィスが14歳のプリシラに恋に落ちるのですが、このスーパースターが自分に心を向けている状況に笑み! 学校でもにんまり! これが可愛らしくてたまりません。現実と夢が行き交う妄想劇場です。1998年生まれで公開年には25歳のケイリー・スピーニーが素晴らしい演技でした。

中学生時代に、好きなアイドルが学校や自宅に来るまで迎えにきたらどうでしょう。異常ですよね。エルヴィス・プレスリーに好かれるのも楽ではないと分かるはずです。同時に、24歳と14歳の恋愛は犯罪レベルでもあるので、決して一線は越えなかったことが原作「Elvis and Me」に書かれています。

やはり観客は自分の14歳時代を思い出して、シーラ(エルヴィスはプリシラをそう呼んでいた)に共感していくのです。これまでメディアが、「エルヴィス、△△と熱愛」とスターを主語で報じていたのとは異なる視点です。

時代、そして人間としての成長期というのもあると思いますが、プリシラはエルヴィスに言い返すことができないし、彼の好み(指示)に従うことで愛を返そうとします。それが、髪を黒に染めたり、つけまつ毛が肥大化していったり、彼がよしとした服を着ることになっていきます。

ここ、めっちゃ切ないです。

もともと美しいし、小柄なのもブラウンの髪も全部キュート(実際のプリシラは163cm、ケイリー・スピーニーは155cm)。でも、彼に尽くすことが自分を変えることだと思っていたら、そういう努力をする。自分らしさがより尊ばれるZ世代から見ると、理解が難しいかもしれませんが、相手はスーパースターですから、従わざるを得ない一面も。二重の制約があったのかもしれません。

テクノロジーの限界

プリシラの、彼に合わせる生活は続いていきます。エルヴィスから、「電話をかけたら出てほしいから、家にいてほしい」も、イエスと言わざるを得ないですよね。

もともと小柄な彼女が、グレースランド(メンフィスにあるエルヴィスの豪邸)で時間を持て余す様子が、スクリーンによく映っています。高い天井に奥行きのある部屋、どんなに寝転んでも決して落ちない大きさのソファ、気なぐさみのペット。さぞかし暇だったことでしょう。

あとは、メディア報道でしょうか。映画の相手役と熱愛報道が出るたびに、気持ちを乱され、エルヴィスに問いただすプリシラ(えらいです)。必ず否定するエルヴィスを信じるしかないですが、やはり撮影で数ヶ月の単位不在にするエルヴィスと、そこに同行できない自分とで、無力感を感じていたように思います。それが20代前半ですから、つらかったですよね。

8頭身エルヴィス

エルヴィスは本作では脇役として、ジェイコブ・エロルディが演じました。エルヴィスの南部訛りをよく再現できており、聞き取りほぼ不能です。

8頭身とはこのことか!と思う写真をご覧ください。エルヴィス本人よりスタイルいいです。

https://twitter.com/boymolish/status/1724102107710497237

アメコミヒーローか!と突っ込みたくなるくらいにデフォルメ感のある体で、その意味でもこの世のものと思えない感がありました。

ジェイコブ・エロルディは、素焼きのカリカリベーコン(bacon crisps)を食べ続け、増量に努めたそうです(Teen Vogue)。エルヴィスの好物でもありましたから、魂もシンクロしたことでしょう。

エルヴィスの回顧メドレーではない

エルヴィスの曲とともに進行してもおかしくないくらいの映画ですが、楽曲は使えなかったのだそうです(Vogue Japan)。

私はほとんどの曲を知っていますが、エルヴィスの曲だ!と分かったのは”Love Me Tender”のオルゴール音(インストゥルメンタル)でしたね。これが最高によかった。「優しく愛して」と訳される初期の一曲ですが、シンプルな歌詞で、全部で100単語いかないほどシンプルです。だからこそ恋の始まりにふさわしい、お豆腐の固まる前みたいな感じがよいです。

“Love Me Tender”は、もともと100年以上前、南北戦争時代のラブソング「Aura Lea」をアレンジしたものとのことです。エルヴィスと南部はつながっていますね。

プリシラ・プレスリーさんはまだご存命ですが、本作を気に入ってくれるのではないかと思っています。前述Vogue Japanのインタビューにもあったように、ショービジネスを生きてきた人にしか分からない境遇というのを、身をもって体験しているからです。この二人が時を超えて、エルヴィスを接点に出会えたことは、幸せだったと思います。

映画公式サイト:https://gaga.ne.jp/priscilla

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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