不快な轟音体験『オッペンハイマー』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

日本人としても観ておきたいと思った大作、『オッペンハイマー』(2023)。あのクリストファー・ノーラン監督作品ですから、普通の作品であるわけがないです!

オッペンハイマー』へのひと言

贅を尽くしたスペクタクルに、異彩を放つのが不協和音。

まず本作を観るのに歴史的背景が少し必要ですが、「マンハッタン計画」という、原子爆弾を開発するプロジェクトのリーダーの一人が、科学者オッペンハイマーです。

原爆の威力を確認する実験が1945年7月にありました。実験は闇の閃光と爆音をもって成功、まもなく日本に原爆投下され、オッペンハイマーは時の人となります。しかし、オッペンハイマーが心の中で抱く不安や疑問が、不協和音で表現されているのです。

ビジュアルにお金を惜しまないノーラン監督が、音にこだわった作品。見直したくないほどの不調和です。

科学者の苦悩

オッペンハイマーが原爆に関与した人、ということは知っていても、本作は原爆投下のずっと前や、ずっと後も扱っています。つまり、オッペンハイマーの人生を追う作品です。

時代に翻弄された、というのがまさにオッペンハイマーの人生に起こったこと。

研究者として、自分の開発が戦争に利用されることは頭で理解しています。しかし、作品にも描かれていたように、実験が成功してすぐに原爆投下され、自分が祭り上られる、そして水素爆弾の開発に着手する米国政府に反対したところ、スパイ扱いされるなど、オッペンハイマーにとって違和感しか持たない状況が続きます。

今日、理系女子とかSTEAMとか言いますし、これからの時代を担う方々へサイエンス(科学)の道が開かれていることは間違いないでしょう。科学が地球を、人類を、暮らしを豊かにする、そう信じて研究に勤しむ方々も多いと想像します。そして、今お世話になっているEメールやインターネットが、軍事目的開発の副次品であることも、承知しています。

同じ科学者の皆さんは、オッペンハイマーがいかに苦しい立場に置かれたか、人生をかけて研究する使命感や喜びがへし折られていく様子を、身をもって感じられると思います。

日本の議論

広島、長崎への原爆投下のシーンが描かれていないことに対して、一定数の批判があると聞いています。私は、オッペンハイマーの人生に迫った本作としては、原爆投下シーンを入れなかったことは理解できます。何より作品を通じて反戦メッセージがありますから、原爆投下が軽んじられたですとか、不十分というふうには思いません。

同時に、第二次世界大戦の加害者でも被害者でも被爆国でもある日本、戦後80年平和を保っている日本は、世の中に発信できる内容がたくさんあります。戦争が止まない2024年、日本には主張していく理由も責務もあるのだと感じます。

ロバート・ダウニー・Jr.が演じたルイス・ストローズ

ロバート・ダウニー・Jr.が演じ、アカデミー助演男優賞を獲得したことが記憶に新しい今。実在したルイス・ストローズとはどんな方でしょうか。

日本語での情報が少ないので、英語で探しましたが、映画ではきちんと描かれています。ストローズはマンハッタン計画でオッペンハイマーと時間をともにしますが、戦後原子力開発推進の立場(ストローズ)、反対の立場(オッペンハイマー)で意見が分かれます。よって、ストラウスは1954年、オッペンハイマーの機密情報アクセス権限を取り消しに関する公聴会を主導し、物議を醸します。結果、ストローズはアメリカの「悪者」となるわけです。その後1959年、アイゼンハワー大統領がストローズをアメリカ合衆国商務長官に任命するも、上院が否認するという結末を迎えました。

見方によっては、つねに国防の観点からアメリカに尽くした人とも言えるでしょう。「悪者」というのがすごいですよね。日本では、特に他界した人に対して、悪く言うことは憚られます。このストローズの一件も裏工作があったことが分かっており、情報がオープンだと思えるアメリカでさえ政治の世界は独特なようです。

『オッペンハイマー』には錚々たる役者陣が参加していて、オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーは『インセプション』に出ていましたね。ラミ・マレックも良かったし、マシュー・モディーンも思いがけず近影が見られて嬉しかった。ゲイリー・オールドマンなんか分かりませんでしたからね。俳優を楽しむにもおすすめです。ただ、繰り返しますが音がつらい作品なので、解説記事などで楽しむことにします。

映画公式サイト:https://www.oppenheimermovie.jp/

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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