私たちはフランスについて知らない…『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

映画で世界を知ることはままあることですが、こういった伝記ものはいいですね。オリヴィエ・ダアン監督が描く女性偉人3部作の最終作とのこと。初の女性欧州議会議長、ホロコーストのサバイバーでもあるフランスのシモーヌ・ヴェイユ氏(1927-2017)の生涯を綴っています。

なお、同名の哲学者(1909-1943)がおり、ユダヤ系のお名前ということですね。

では映画へのひと言、行ってみましょう。

『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』へのひと言

私たちの知らない、フランス。

高校生まで歴史が大の苦手で避けてきた私にとって、フランスはevianの国という程度でした。フランス映画を見たり、フランスを旅するようにもなり、フランスのことを少しずつ吸収してはいるけれども、ここ100年の現代フランス史は無知であります。

また、多くの人にとって、フランスはファッションとワインとチーズの国。ではないでしょうか。

中絶法のことは映画『あのこと。』で知って、今回はその法案を通過させた人としてシモーヌが紹介されていました。

ユダヤ系フランス人のシモーヌ一家は、第二次世界大戦によって悪夢のような時間を過ごします。フランスはドイツに占領され、家族が離散してしまい、収容所での生活を送る。毎日いのちの大切さを感じたことと思います。

PTSDと言いますが、言葉にし難い体験をしただけではなく、その記憶が一生つきまとう、これが戦争の恐ろしさと言えましょう。

ドイツと陸続きのフランス。ドイツに嫌悪の気持ちを向けるのではなく、欧州に前向きな将来を見いだした彼女こそ、真のプロフェッショナルなのだと思います。

映像で見るからこその嫌悪感

戦後80年が経とうとしており、日本人も平和を尊ぶ国民だと思います。しかし、そういった世界規模の戦争が数百年前のことではなく、100年に満たない「最近」起きたことだと思うと、ゾッとします。

作品では、収容所での様子が映像によって再現されており、軽んじられた命や、非人道的な扱いが見て取れます。「なぜ?」と理解に苦しみますし、誰も経験したくない場面ばかり。なのに組織的にこういう現実を作ってしまった人間の恐ろしさがあると思います。

ユダヤ人収容者が腕に番号を彫られたことは、よく知られています。でもこの再現シーンを実際見て、「私たちは番号によって管理されなければならない存在か?」と強い抗議の気持ちを覚えました。もちろん私たちには名前があり、公的身分証もありますが、いわば家畜のようにからだごと管理されていたわけです。これがいかに愚かなことであるか、身に沁みて分かりました。

今、VRの戦争ゲームがあると聞きます。このことに賛成とは言えませんが、現実よりはVRの方がましです。戦争ゲームは戦争の恐ろしさを知る上で効果があるとも聞いていて、とにかく現実世界に起きてはならないことだと感じます。

人は愛によって生きることができる

作品中で政治家シモーヌの半生を追体験していく中で、この方は政治家にありがちな私利私欲ではなく、大きなミッションを描きながら、一人一人の生活に思いを向けられる人だと感じました。大きな部分は政治家や行政府が得意とするところです。一方で一人一人の生活はNGO/NPO、人道支援団体が担っていることが多いです。両方の視点を持っていることが、彼女を稀有な存在にしていると思います。

もちろん、家庭を顧みないというような仕事人としての彼女も描かれていましたし、家族の理解や協力があって偉大な功績を残されたのでしょう。苦を苦で返したり、罰によって裁くのではなく、愛によって前進させるような活動は、ネルソン・マンデラ氏にも重なるところがあると感じました。

シモーヌの著書「Une vie」(2009)は各国に翻訳されているようですが、日本語は見当たりませんでした。こちらは英語版(Amazon)ですが、ぜひ読んでみたいと思いました。

日本語では、2011年に「シモーヌ・ヴェーユ回想録―20世紀フランス、欧州と運命をともにした女性政治家の半生」(Amazon)が刊行されていました。それ以外は、極めて日本語情報の少ない人物であり、今回映画になって日本に届いたことは、時代と国を超えて、意味を持つことになったと思います。

若いシモーヌを演じたレベッカ・マルデール、そして政治家としての半生を演じたエルザ・ジルベルスタイン、どちらも素晴らしかったことを付記します。夫君を演じたオリヴィエ・グルメはよく似ていました!

公式サイト:https://simonemoviejp.com/

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Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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