視界制限の圧迫を感じる、『あのこと』

視界制限の圧迫を感じる、『あのこと』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

2022年末に見た映画。今回は「イベント割 ムビチケ作品共通券」を使って鑑賞してきました。2023年1月末まで、曜日や時間帯に関係なく1,200円で鑑賞できます(参加している映画館を事前にチェックのこと)。

フランス映画、『あのこと』。フランスの大学生が妊娠し、学業を諦めなければいけないかもしれないという1970年代の話です。2021年ヴェネチア国際映画祭での最高賞受賞とのことで、予告を見て期待が膨らみました。オードレイ・ディヴァン監督です。では早速ひと言に参りましょう。

『あのこと』へのひと言

映画を映画たらしめる、視界への挑戦を感じました。

カメラワークによる、圧迫感。

予告では「あなたは〈彼女〉を体感する。」と言われていて、実現するにあたっての鍵はカメラワークだと予想されました。

映画の世界では、感情移入を促すのに2つの方法があります。1つは主人公をアップで見ることです。遠くの米粒みたいに小さい人物ではなく、その人の表情が読み取れるような近さになると、親近感を感じてしまうのです。逆に悪人は、カメラから距離がある位置にいたりします。もう1つは主人公の見ているものを見る、つまり主人公の目になることです。この2つの視点を、観客は無意識に使い分け、行ったり来たりしながら、主人公に同化していくと言われています。

画面には、アンヌが映っていて、主人公に感情移入していくきっかけにはなります。しかし、いわゆる編集でつないだ感じではなく、アンヌの至近距離で小蠅のようにカメラがいるので、画面の余白があまりに少ないのです。結果、観客が見えている視界が限定されており、与える圧迫感がかなり鬱陶しいです。アンヌの追い詰められた感を、こうやって観客も感じます。

私にとっては、完全移入や没入という感じではありませんでした。が、カメラがないと撮れない映画の本質から言えば、主人公に合わせたカメラワークは見事でした。

原作が面白そう!

フランス語のタイトルは L’Événement 、こちらは英語だと The Event (出来事)や Happening (偶然の出来事)を表します。原作はアニー・エルノーの小説で、日本語では『事件』と訳されていますね。

一体何があのことなのか、事件なのか。それ自体が作品のテーマです。話の展開はぜひ映画をご覧になって下さい。

アニー・エルノーさんのことを少し調べると、自伝小説を書く文筆家で、この『事件』のみならず、親との記憶、結婚や育児、闘病まで、ご自身の様々な体験を書かれています。この妊娠についても自伝的なわけですから、大変ドラマティックな人生を選ばれたのですね。実際エルノーさんがどんな学生だったかは分かりませんが、今回アンヌを演じたアナマリア・ヴァルトロメイさんは、強い芯を持った女性で、そんなに軽々しい印象や、男好きな雰囲気は受けませんでした。

エルノーさんは2022年ノーベル文学賞を受賞されました。1940年生まれの小説家で、日本で言うと向田邦子さん、有吉佐和子さん世代と、林真理子さん世代のちょうど中間です。もう男性、女性と言わなくなった時代ですが、女性で文筆家となり、ずっと現役で来たのは素晴らしいですね。

中絶が違法の時代があったことは、フランスでカトリック文化が色濃いことを感じますが、エルノーさんの人生はゴーイングマイウェイでしょうか。2020年映画『シンプルな情熱』も、エルノーさんの原作がベースとなった恋愛映画(不倫映画とも)と呼ばれていました。

そうなるともう、中絶や不倫の是非を話すことなどナンセンスですから、主人公のそのような人生を体験してみることに、価値があると言えましょう。

『あのこと』はそれを映画的に体験させた作品として、価値があると思います。もちろん「原作の方がよかった」と言われるのは予想できますが、映画という媒体で蘇らせたり、新しいオーディエンスを獲得することで、息を吹き返す価値もあると思います。

映画公式サイト:https://gaga.ne.jp/anokoto/

『シンプルな情熱』公式サイト http://www.cetera.co.jp/passion/

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