『シャイニング』とはまったくの別物!『ドクター・スリープ』
11月29日、『ドクター・スリープ』 が公開されました。
有楽町でしばらくビジュアルを見ていたのですが、一発で『シャイニング』と分かりました。
どちらもスティーブン・キング原作で、小説『シャイニング』の続編が『ドクター・スリープ』という事実には間違いありません。
別物を決定づけたのは
しかし私はキューブリック監督の『シャイニング』(1980)を浴びるほど繰り返し見ています。もちろん、キューブリック作品を見に行くのではないことはよく理解していました。
私が本作で一番残念だったのは、続編が「ゾンビ映画」かつ「超能力映画」として作られてしまった部分だと思います。
『シャイニング』の怖さは、説明不能な部分が多いです。言葉に落ちないというか、因果関係を超えているとか、それだけ大きなものを扱おうとしました。それを、『ドクター・スリープ』は説明しようとしたのです。しかし、幽霊はこういうふうに登場し、こういう目的と手段で現れ続ける、それにはこういう方法で対抗する、というのは細かく知っても仕方ないのです。かくして、死人はゾンビとして不死を続け、ゾンビと戦う人間は超能力を使う、そんな映画となりました。
以下、ネタばれにならないギリギリで書きます。
狂気の振れ具合
『シャイニング』の怖さは3つあり、1つは主人公が静かに狂っていく様子、これをジャック・ニコルソンが見事に好演しています。2つ目はホテルに“住む”住人がリアルであり、大道具、タイトなカメラワーク、重厚な音楽など高い完成度で各シーンを見せてくれている緊張感。3つ目はリアルで、斧などの凶器が痛く思える点です。
一方で『ドクター・スリープ』は、『シャイニング』で主人公の息子を演じたダニーが大人になった設定で、ユアン・マクレガーが演じています。ニコルソン演じるジャックが正気(善人)から狂気(悪人)まで振れ幅があるとすると、ダニーの振れは極めて限定的。つまり、勧善懲悪的であるほど、ストーリーは浅くなってしまいます。
寒々しい閉鎖空間
『シャイニング』はコロラドの雪が深い山間部ホテルが舞台です。ちびっ子ダニーは広いホテルの中で三輪車を乗り回しますが、子どもゆえに視線が低く、廊下を90度曲がった時の怖さと言ったらありません。
キングの原作では、コロラド州のStanley Hotelが舞台となっているそうですが、キューブリック監督はオレゴン州のTimberline Lodgeで外観撮影を行ったそうです。
『ドクター・スリープ』はニューハンプシャーつまり東海岸で展開されます。古き良き歴史があり、アカデミックな雰囲気や自然も手が入っているイメージ。何も孤立したり、閉鎖したりしていません。もちろん 『ドクター・スリープ』 本編ではそのホテルも出てくるのですが、今回はもう少しオープンエアーを感じる作品です。
刃物の恐ろしさ
サバイバルの世界では、至近距離では銃よりもナイフのような刃物が正解だと聞いたことがあります。
『ドクター・スリープ』 には銃、斧、ナイフ等の凶器が出てきますが、やはり本当に怖いのは斧やナイフで取っ組み合いになった時です。これも、『シャイニング』の方が見ごたえがあるように思います。
『シャイニング』から見た『ドクター・スリープ』評価
監督がちがうので、比べないことが一番です。そして、このマイク・フラナガン監督が『シャイニング』をリスペクトしているのはすごくよく分かるので、オマージュ(敬意を込めてその映画を特定するシーンなりアイテムを入れること)だと思えばよいと思っています。
ダニーの特殊能力を分かつ相手としての黒人少女カイリー・カラン、そしてダニーを助ける隣人クリス・カーティスもニュージーランド人(マオリ)なので、ダイバーシティの側面からは2019年らしく楽しめました。
しかし、『シャイニング』に熱狂できる世代はアラフォー以上なので、どこまで興行成績が伸びるか不安です。公開最初の土日なのに、満席の劇場ではありませんでした。アナ雪も4劇場で攻めてますし。
J. ニコルソンのその他オススメ作品
私の中のジャック・ニコルソンベスト1は『シャイニング』ですが、セクシー俳優さん時代は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1981)も人気作でした。ジェシカ・ラングと共演、原作から複数回映画化されています。刹那的というか。
その前ですと『ファイブ・イージー・ピーセス』(Five Easy Pieces、1970)で屈折した若者を好演しました。その時作品にほれ込んだ記憶はないですが、オープン・エンディング(明確な結末がなく、観る者に委ねるような終わり方)が特徴的なアカデミー賞作品賞ノミネート作です。
『シャイニング』はAmazonプライムで見られます。