鬼才ぶり、30年ぶりに見届け『汚れた血』(1986)

こんにちは、映画☆星読みライターのJunkoです!

生きていると、高校卒業から30年ということすら起こってきますが、その感覚で『汚れた血』に再会することができました。

明日、4月1日に公開されるレオス・カラックス監督新作の『アネット』に先駆けて、監督の過去作品が上映されていたためです。私と同年代以上の方々に加え、20代、30代の方もいらしたかな。デジタル化されていなかったのか、画質は結構荒かったですが。

『アネット』(2021)

カラックス監督のなかで、私は『汚れた血』が一番好き。しかし記憶が曖昧になっていたので、今回見直すことができてとてもよかった…。

今日も、この作品へのひと言に、チャレンジします。

『汚れた血』へのひと言

この作品には主題歌があって、デヴィッド・ボウイ『Modern Love』なんです。映画の主題歌って、割と安易な立て付けが多いのですが、『汚れた血』は別格。

あまりにも息の合った、圧巻のロングテイク一択。

この映画を象徴するのは、このシーンしかないのでは、というくらいの迫力です。トタン板のような背景も、思わずロケツアーに行ってしまいたいくらい(ないけど)。

映画は、「モーション・ピクチャー」と言うくらい、発明当初からモーションつまり動きを撮ったものです。

人間の動き、そしてカメラの動き。この呼吸レベルでシンクロした映像で、ドニ・ラヴァンさん演じる主人公アレックスの恋心、躍動感、フラストレーション、諸々が伝わる素晴らしさ。レオス・カラックス監督がヌーベルバーグ(1950年代フランスで、伝統的な映画からの脱却を目指して作られた「新しい波」)をカラックス流に提示したように、この野外での解放感ある長回しも、目を見張るものがあります。

もちろんストーリーがあり、登場人物の関係性が見えているからこそ映える、整えられたシーンなのですが、評論レベルで見ても、ミーハー心で見ても、感嘆のため息しか出ないです!

もう一つのロングテイク

『Modern Love』のシーンは、言っても中盤で、見せる土台が整ったところで展開するのですが、冒頭に実は同等の難易度と思えるロングテイクがあります。

アレックスと、恋人リーズのバイクシーン。

アレックスが減速するわけもなく、視点をぶらさず、背筋をピンと伸ばして、一直線に走る様子。このバイクのスピードを考えると、撮影する側に相当な腕が試されます。見る側がドキドキ。見どころの一つと言えるでしょう。

そうそう、『アネット』でもバイクシーンがあるみたいで、楽しみです!

2人の女優のスゴさ

この映画、ジュリエット・ビノシュさんの瑞々しさを撮りたかったのでは?と思うくらい、可愛らしく、透き通る肌の彼女を余すことなく収めています。ビノシュさんは1964年生まれで、公開当時21〜22歳、撮影時は20歳くらいだったかもしれませんね。役のアンナは30歳で、ちょっと無理がある感じ、幼さが残るところがちょうどよかったかもしれません。

1980年代ですから、整形とかそういう話ではなく、「本物の美人とは、こういうものです」と思わされる容貌。真似したくなる、息で前髪を飛ばすしぐさ。ビノシュさんが映画俳優になってくれてよかった。

この、横綱クラスの主役が出てしまったために、どうしても脇役になったジュリー・デルピーさんですが、彼女はもう大関クラス。

バイクに一緒に乗るシーンでは、まだ依存気質が残りますが、その後堂々と一人で(男性が乗りこなす)バイクをかっ飛ばす爽快さったら! 線の細さと、真の強さのギャップがいいですね。

二人ともこの作品に欠かせない、強さと弱さを内包した役柄を演じています。

片想いのせつなさ

『汚れた血』のジャンルは、クライムでもあれば、恋愛でもあり、青春映画でもある。そのため恋愛要素は薄まっているのですが、ここもフランス映画が得意とする、男女の三角関係があるんですよね。

リーズはアレックスに夢中。アレックスはアンナに夢中。アンナは親子ほど歳の離れる男性と付き合っているが、アレックスにも振り向きつつ。アレックスは、リーズにも振り向きつつ。最後にアンナは何を追いかける?

言葉になりません。そして観客は、やっぱりアレックスに感情移入してしまうでしょう。

よかったら、三角関係を集めたこちらの投稿も、どうぞ。

カラックス監督の来日に感謝しつつ、そして『アネット』に期待しつつ、『汚れた血』が大好きだ!

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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