いつの時代も、人生迷いまくり。『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』(2021)

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

Bunkamuraル・シネマでの上映ラインアップは信頼が置けますし、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門にかかったこともあって、観ることを決めました。178分、最近2時間超えがブームなのでしょうか。

ドミニク・グラフ監督作品は本邦初公開ということで、新人かと思いきや1952年生まれのベテラン。ベルリンのコンペにも、2001年、2014年に続いての出品だったようです。

https://youtu.be/Dwf3ouarwK8

『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』へのひと言

ではさっそく、ひと言です。

どんな時代でも、人を愛し、人生に迷う。

人間としての営みは、どの時代に生まれても変わらない、そう思わせてくれる作品でした。

以前、ちょっと真面目な投稿をしていたのですが、在留外国人の方が帰国するかしないかの決断をする際、主義主張で決める場合もあれば、「日本人と結婚したから」「子どもが小学校に上がるから」など、私的な理由で留まる方も多くおられます。

現在世界で起こっている戦争を見ても、戦争で何もかもがストップしてしまうというよりは、結婚する方、出産を控えている方などがおり、やはり日常は日常であるものです。映画でもファビアンが食事をし、仕事に行き、夜遊びをし、恋に落ち、母からの小包に愛を感じる。そんな日常の風景が繰り広げられます。ドキュメンタリーの感覚さえ残るほどに、自分ごと化できるシーンが続きます。

たしかに1930年代のドイツは、不協和音というべきか、第二次大戦へ突き進むような動きが生活の節々に見られます。しかし、その時々に人は柔軟に、姿かたちを変え振る舞います。国が取り締まっても、国民一人一人が軍隊のように動くわけではないのです。

ファビアンが時代に翻弄されながらも、等身大で生きる日常の姿に、心打たれました。その意味で、万能なヒーローからは程遠いのに、清々しさを感じます。

アレゴリー(別の形で表現すること)の要素

戦後生まれの監督が、2021年にこのような作品を発表することは、どう解釈するのがよいでしょうか?

本作は戦争映画ではなく、世界戦争と世界戦争の間の、不穏な空気を切り取っています。監督曰く、これが今日に通じる空気なのだそうです。映画評論でも「アレゴリー」という表現手段で、Aの事象を描写(批評)するためにBの事象を取り上げることがあります。1930年代を扱っていながら、本当に伝えたいのは2020年代、ということでしょうか。

グラフ監督の意図を深読みするならば、現代も雇用の不安定や物価の上昇、世界的なエネルギーの奪い合いによって、一般市民は自分自身を保つのに必死となります。自分を「被害者」に置く、つまり無力でサイレントな存在として位置付けることで、大きな渦の「加害者」とならないよう、という警鐘のように思えました。

原作は『モモ』などの児童文学で知られる巨匠、エミール・ケストナー氏で、発刊当初も話題になったようです。今で言うピケティやハラリのような存在かもしれませんが、それが物語というのが秀逸ですね。

ファビアン――あるモラリストの物語

ドイツ人の内省力

一つ、戦後ドイツが自らに課していると感じるのは、大戦の反省を元に、ホロコーストを風化させない姿勢です。政治レベルでも発言に上りますし、映像でも繰り返し取り上げています。

『さよなら、ベルリン』のような作品は内省的、つまり自らを見つめる行為だとも思いますし、見たくないものから目を背けない姿勢は、簡単にできるものではないと感じます。

映画史の教科書でも、レニ・リーフェンシュタール監督がベルリンオリンピックを記録撮影した『オリンピア』への批判(特定の民族の肉体美を強調したと解釈された)は、必ず出てきます。ドイツ人にとっての映画は、プロパガンダとも隣り合わせなのかもしれませんね。

戦争という状況下にあっては、誰もが被害者だという見方もあります。ドイツではあえて加害者の立ち位置を取り、不快な感情を伴ってでも、過去を風化させずに、平和教育につなげているのだと思いました。この映画はドイツでも賛否両論あったと聞きますが、対話を生むからこそ、作品の意味があったとも言えるでしょう。日本の観客としても、「遠いドイツの、昔の話」から一歩踏み込めるか、と問われているようです。

『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』公式サイト https://moviola.jp/fabian/

主人公ファビアンを演じたトム・シリングさん、恋人コルネリアを演じたサスキア・ローゼンダールさんの出演作『ある画家の数奇な運命』(2018)も要チェック!

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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