少女の心が持つ愛の力… 『奇跡の海』(1996)

日曜日の夕方前にお散歩すると、冬でも裸足にサンダルの人、ジャケットとパンツに全く合わないキャップの人、など隙ありまくりの男性陣が近所で買い物する姿が見られて楽しい。

こんにちは、映画ひと言ライターのJunkoです!

最近見たい映画も目白押しですが、今日は私のなかで殿堂入り(ベスト10)しているラース・フォン・トリアー監督の『奇跡の海』(1996)をご紹介。予告を見ただけで涙が出そうです。

『奇跡の海』へのひと言

ラース・フォン・トリアー監督の作品はこれ以外にも観ていたのですが、本作は珍しいほどに純愛です。

ピュアに信じる力が、一番強い。

私の周りの映画通の友人たちは、『奇跡の海』が大好きか、大嫌いかに分かれました。そのくらい物議を醸す方が、コアなファンに愛されるというものです。

嫌いな方の言い分は、「女を馬鹿にしている」「ただのクレージーな女の話」ということでした。エミリー・ワトソンさんの演じるベス・マクニールが、油田で致命傷を負った夫の回復を信じて、夫の「他の男と寝て、その話を聞かせてほしい」という願望に純粋に従います。クレイジーなのはベスではなく、ベスの夫なのです。

当時の私は、自身をベス・マクニール(のピュアさ)に重ね合わせていたということもあり、悲劇のヒロインぶっていたかもしれません。しかし、頭が足りないと言われようと、売春婦扱いされようと、ベスらしさは、彼女のひと言 “I can believe.” に集約されています。

https://www.filmlinc.org/films/breaking-the-waves/

作品の中で胸が痛い場面の一つなのですが、ベスは自宅を訪れた医師との会話で自分の特技を聞かれて、 “I can believe.” と返します。私は、信じることができる(日本語字幕はそうでなかったかもしれません)。夫の回復を信じている。慈愛の神にも厳格な神にも、信じることで対峙する小さな小さなベス。一番弱い立場の人間が、一番強い、そんな物語でした。

ロジャー・イーバート氏の評

私の尊敬する映画評論家のお一人、ロジャー・イーバート氏(Roger Ebert)は、ご自分のウェブサイトで星4つ(満点)をつけておられました(出典:Reviews: Breaking the Waves)。

まずイーバート氏は、エミリー・ワトソンさんの演技を直感的、本能的だとして称賛。頭で考えたり計算したりしても成しえない演技だとし、特にベスが一人二役で神様との会話をするシーンなどがほほえましく、お気に入りのようでした。

そして、もう一つこの映画は「宗教的(religious)」ではなく「スピリチュアル」だとして、観る者に立ち位置スタンスを取らせるところを評価しました。まさに、この映画が好きと言った人も、嫌いと言った人も、それぞれ理由があります。イーバート氏の主張を要約すると、「ベスの住む小さな町は、宗教的だけれども他人に冷たく厳しい。ベスを思いやる友人は少なく、彼女は自身の行いによりますます侮蔑される。しかし、そんな社会での善悪とは何でしょうか?信仰は慰めでしかないのか、死や悪にも立ち向かい勝つことのできる力なのか、ベスには分かっています」。

https://www.filmlinc.org/films/breaking-the-waves/

イーバート氏のサイトでは、「映画史上ベスト300」が見られるのですが、残念ながら『奇跡の海』は選外。しかし、1990年代のベスト10では、7位にランクインです(出典:Ebert & Scorsese: Best Films of the 1990s)。

この映画の実は三角関係なストーリーや、役者や音楽、カンヌ映画祭での審査員グランプリ獲得など、書きたいことはたくさんあるのですが、またの機会に。

ラース・フォン・トリアー監督の中で、この純愛映画『奇跡の海』が一番好きだ!

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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