音を制す者、映画を制す『ようこそ映画音響の世界へ』
ジャック・ニコルソンの『シャイニング』という映画が大好きですが、ジャックの斧の音よりも、ウェンディの「ヒィィーーーッ!」という叫び声が怖いです。
こんにちは、Junkoです!
上映終了までに行けるかな?と時間をやりくりして、何とか観ることができました、『ようこそ映画音響の世界へ』(2019、原題 Making Waves)。映画館は一席ずつ空けなくてよくなったばかりです。
映画音響に興味がある老若男女が集まった結果か、何とも穏やかで品のよいオーディエンスでした。何と言うか、玄人好みと言うか、縁の下の力持ちに理解があるというか。席に着くまでの声かけや足を除けたりする仕草で、感じ取りました。
以下、この作品を観たくなるような「フムフム」ポイントをいくつか記しますね。ドキュメンタリーですし、ネタバレはないのでご心配なく。
人間の耳はスゴイ!
一般的に、映画音響と聞くと、音楽を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。『ニュー・シネマ・パラダイス』しかり、『ピアノ・レッスン』しかり。この映画は、音を「声」「効果音」「音楽」の3パートに分けて説明しています。一番の見どころは、効果音を作っていくところでしょうね。雪を踏む音、取っ組み合いをする音などを、似た音が出るものでアテレコしたりします。『ジュラシック・パーク』の恐竜の遠吠えや、『スター・ウォーズ』シリーズのR2-D2の声を、どうやって作っているかを垣間見ることができました。
驚いたのは、人間の耳の精巧さです。自然界の音と人工的に作られた音を聞き分けられるんだなということ。恐竜の遠吠えが怖かったり、R2-D2の声に胸がキュンキュンするのは、自然にある音を組み合わせているからなんですね!
音のスゴさを感じるために観てみたいと思った作品は、劇中にも出てくる『プライベート・ライアン』(1998)です。
ハリウッドの底力
映画史は勉強してきましたが、ハリウッドでさえ映画が斜陽産業と言われた時期があったということに、改めて驚きました。ライバルはテレビです。日本でも1950年代後半から「一億総白痴化」と言われていました。アメリカでは、フランシス・フォード・コッポラ監督やジョージ・ルーカス監督がデビューする前の1960年代後半、斜陽と言われたようです。
ちょうどヒッピー全盛で、映画制作と言えばUSC(南カリフォルニア大学)の学生がスタジオに就職したり、OBがリクルートしたりする時代でした。コッポラとルーカスはいわば学友で、ポストプロダクションが一カ所で出来るような場所を求め、1969年にゾエトロープというスタジオを立ち上げます。撮影だけでなく音響や編集にこだわる異端児が映画界を押し上げ、今がある。
俳優では、バーブラ・ストライサンド氏が『スター誕生』(1976、レディー・ガガ版の原作品)でドルビーサウンドの導入を訴え、一気に映画館への導入が進みます。こういうアーリーアダプターと言うか、このテクノロジーにかけよう!と先導する存在、本当に大切です。
デジタル化やCGIが進んで再び安泰なように見えるハリウッドですが、今はどんなエッジが効いた人材がいるでしょうか。
こちら、大コケしてしまったという、ゾエトロープ第1作『THX 1138』(1971)です。ちょっとアヴァンギャルドと言うか、時計じかけ的な非一般受けテーストを感じます。本作品に出てくるデヴィッド・リンチ監督、アン・リー監督、ソフィア・コッポラ監督も、ハリウッドで成功を収めながらハリウッドぽさを感じない、独立系の骨太さを感じます。
白人男性中心の映画産業
ハリウッド映画の男性プロデューサーによる長きにわたるセクシュアル・ハラスメントが、近年明るみに出ましたが、白人中心だったと言われても否定できないのがハリウッドの映画産業。キャストもスタッフも同じことが言えます。『ようこそ映画音響の世界へ』には白人女性スタッフも何人か出てきます。彼女たちは「男性ではなく驚かれることはあったが、力に差があるとは思っていない」と発言しますが、その男性とは白人男性であり、非白人のプレゼンスの薄さを感じます。
しかしその中のグッドニュースとしては、日本がルーツと思われるお名前が2人登場したことです。一人はUSCのケン・ミウラ氏。アメリカ生まれで、本名はコウイチ・ミウラとのこと。USCの教授で、49年間映画音響について教鞭をとり、教え子にルーカス監督らがいます。ハリウッドスタジオへの人材紹介の役割を担っておられたようです。
もう一人はドルビーサウンドのインスピレーションとなった、冨田勲(とみたいさお)氏です。シンセサイザー音楽で知られる作曲家で、コッポラ監督が『地獄の黙示録』を撮影中、冨田氏の『惑星』の立体音響に影響を受け、いわゆる「後ろから」「横から」音が聞こえる環境を、映画館の中に作っていきます。冨田氏の曲も聴いてみたいと思いました。
映画はもちろん好きだ! 音にこだわる映画や映画人は、もっと好きだ!