何もかも、前提とちがう。『青いカフタンの仕立て屋』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

今回は、モロッコ映画の『青いカフタンの仕立て屋』(2022)、マリヤム・トゥザニ監督の作品です。

このタイトルから、私が想像していたのは、家が仕事場みたいな雰囲気の『髪結いの亭主』(1990)、もしくは異国つながりで『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』(2021)のようなほのぼの、可愛らしい作品。

では、早速ひと言に参りましょう。

『青いカフタンの仕立て屋』へのひと言

すべてに裏切られ、開眼させられる。

まず、物語を一切知らずに映画館に飛び込み、驚きました。テーマは「愛」に間違いないですが、男女間の恋愛とは限らないのが令和の時代です。 本作には高年夫婦である男女(ハリムとミナ)、そして二人が営む店の従業員である若い男性(ユーセフ)が登場します。ここに、どんな感情が生まれ、動くでしょうか。

このテーマは、最近だと『エゴイスト』『怪物』にも流れていますし、これから見る『CLOSE クロース』でもそうだと思います。まさに世界の一連の流れでもあります。

比べるとよく分かるのが、『突然炎のごとく』(1962)のような三角関係です。女性1人、男性2人は若くて同年代、男性2人は同じ女性に恋をします。ラブストーリーと言ったらそういうものです。

この中心人物3人のなかで、ハリムを演じるサーレフ・バクリの演技は化け物級でした!こんな静かな映画を、わずかな表情や佇まいで演じていたからです。

モロッコの特異性

ま、日本も十分特異な国だとは思いますが、モロッコも別の意味で特異なので、本作を語る上でもおさらいしておきたいです。

まず、地理的にアフリカで、海を挟むとスペイン。言葉はアラビア語ですが、かつてのフランス植民地だったことからフランスの文化も入っています。トルコやイスタンブールは、東洋と西洋の合流地点、などと評されますが、モロッコはヨーロッパと北アフリカのちょうど接点ですね。

主人公の男性はブルーアイでヨーロピアン系の顔立ち、女性はアラビア系、若い男性はインドやパキスタンにいそうな顔立ちをしていました(あくまで私の印象)。「モロッコ人」と括れないほどに、印象が異なります。

文化的にはイスラム教圏です。女性が体を覆っているということもありませんが、男女の社会的スペースも分断されていますし、同性同士の関係は日本以上にタブー視されるでしょう。

そして、アラブの伝統衣装である「カフタン」。本作は仕立て屋さんの話ですから、お店で採寸し、布地を選んで発注すると、オーダーメイドのカフタンが仕上がります。豪華な色や生地のものはお祝いの日に着るなど、日本の着物にも似た用途で使われているようです。カフタンの前面や袖口にさまざまな刺繍やリボンの装飾が施され、一つ一つが手縫いであり、より高額になっていくことが想像されます。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kaftan_light_blue_front.jpg

ここでは、男性が仕立てているのも興味深かったです。仕立て屋のハリム(ひげ親父)が糸と針で、一針ずつ縫い進める作業が、新鮮に映りました。

こうやって物語の中でカフタンが仕上がっていくのですが、市場に行ったり、公衆浴場に行ったり、洗濯物を干したりと、モロッコの日常が出てくるのも印象的です。日本からは遠い国ですが、行ってみたい気持ちにさせられました。

このように、映画は映画でも前提のちがいが大きい作品でしたが、その意味で映画史に切り込む意義は大きいと思います。2022年のカンヌ映画祭でFIPRESCI受賞などもうなずけます。配給はロングライドさんということで、なるほどな一本でした。

公式サイト:https://longride.jp/bluecaftan/index.html

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Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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