二国の差別的現実を超える女性、『ミセス・ハリス、パリへ行く』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
私は映画祭の賞や評論家の星の数も参考にしますが、観客の星の数も参考にします。なかなか評価の高かった『ミセス・ハリス、パリへ行く』(2022)を観に行きました。
ファッションの話は大好きだし、クリスチャン・ディオールの話とのことで、興味津々。ポスターのビジュアルは、『メリーポピンズ』みたいですかね。
では早速、ひと言に行ってみます!
『ミセス・ハリス、パリへ行く』へのひと言
2つの国の、階級社会の話。
日本人の憧れの国の2つであろう、イギリスとフランス。ハリスおばさんは、戦後を生きるイギリスの家政婦。労働者階級ですし、家政婦とは(少なくとも当時は)家事以外に売りこむ能力がないから、と思われます。
一方のフランス。ファッションブランドは、オートクチュールの世界。つまり大量生産せず、希少価値で売る。資産家しか相手にしていません。営業担当もスノッブに見えます。ハリスさんはディオールのドレスがほしいという強烈かつ純粋な思いでパリに向かいますが、果たして買えるんでしょうか?
ミセス・ハリスがあまりに可愛らしく笑顔なので、「蔑まれる」感じも少ないのですが、現実社会では相当冷たい視線を浴び、門前払いされそうです。
ファッションは素材で日常と非日常を分けることがありますね。例えばドレスはサテンやシフォン、毛皮など普段使いしない生地を使ったりします。それに比べてミセス・ハリスの服装は、着心地の良さそうなカーディガンやブラウス、タイツ。コットンやウールなどの素材で、清潔で可愛らしいのですが、ザ・日常が出ています。こんなところに注目するのも、面白いです。
モテモテの中年のおばさん
このミセス・ハリス、ハリス夫人の訳で、つまり夫の姓がハリスということ。出兵した夫の帰りを待っています。
この壮年おばさんという、「若さ」が売りではない主人公なのですが、かわいらしいのはキャスティングの妙です。そして彼女にアプローチする男性も一人だけではなく、いいやんモテモテ!という感じ。
一方で若いファッションモデルも出てきて、ポルトガルの女優さん、アルバ・バチスタなんか本当にかわいいです。前髪を下ろしたポニーテールは、オードリー・ヘップバーン、もしくは若い頃のナタリー・ポートマンのよう。
中年おばさんを主人公にした映画は、あっぱれだなと思いました。
ファッションの歴史
前述したオートクチュールですが、作品の中にも採寸するシーンが出てきます。つまり、一人のためだけに作る。ビジネススーツなどもオーダーメイドはありますが、社交の場に着ていくドレスなので、デザインも素材も色も選び放題。贅を尽くした品です。
そんなドレスに憧れてしまったミセス・ハリスなので、パリに向かうしかありません。この行動力、見習いたいものです。
そして作品では、オートクチュールの限界も見えてしまい、クリスチャン・ディオールはその逆の動きに出ます。それが今日私たちが知っている形。もちろん今もハイブランドですが、本当に一握りの人しか所有できなかったブランドであったことを、忘れてはなりません。
海外ロケは当たり前
エンドロールが流れると、クレジットのクルーのお名前に á, í, ú のように記号が多くついていることに気づきました。記号は英語ではほとんど見ない、仏語でも限られたものしか見ないです。
見進めると、ロンドン、パリの他にブタペスト(ハンガリー)ロケをしたことが分かりました。ミセス・ハリスと御一行は、ブタペストに行く、だったんですね。
ハンガリーはタル・ベーラ監督など錚々たる映画を生んだ国ですし、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブタペスト・ホテル』なんかも思い出されます。
コストのこともあるとは思いますが、地続きで撮れるのがヨーロッパの面白いところ。日本では地続きというわけには行きませんが、中国や韓国でのロケ、ポストプロダクションは進んでいます。映画制作にますます国境がなくなったことを感じる、今日この頃です!
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/mrsharris
<広告> 映画をよく見る人は、動画配信サービスをどうぞ!