思想よりも自己防衛『ファイナル アカウント』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

8月は終戦記念日もあり、戦争や平和について考えるひと月でもあります。8月公開はその意味もあったでしょう、『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』(2022)を見てきました。ルーク・ホランド監督の作品です。

『ファイナル アカウント』へのひと言

本作品はドキュメンタリーですから、安易な予想をするならば善が悪を裁く内容であり、カメラを向けられて自己擁護するような者は、恥を知れ、と言うトーンなのでしょう。

おりしも2022年は世界が戦争をしていて、私も一個人として、気持ちをどこに向ければいいのか迷います。世の中はそんなに単純に出来ていないからです。

人は、自分を守るしかない。

人の命を奪う行為は間違っていると分かっても、自分の命と天秤にかけられた時にどうか。同調圧力の中で、仲間10人がイエスと言った後で自分はノーと言えるのか。人は全員が思想家、革命家ではありません。

さらにその行為を戦後糾弾された際に、どう自分の中で解釈し、平静を保てるか。80年前のことで、いったいどれだけ覚えているでしょうか。

ある意味、他人事だったり、軽々しく聞こえる発言もあります。ただ、そうしないとやっていけないほどに、重い体験だった、全員が戦争の犠牲者だった、ということなのだと理解しています。

人はみな、自分の人生を意味あるものと思いたい。防衛本能を働かせて、時代を生きていく。その思いには十分に共感するからです。

情報量のちがい

今日の戦争が「情報戦」「ハイブリッド戦争」と言われているように、必ずしも現場で人と人が争うというのではない形で、戦いが繰り広げられています。

しかし1930年代、40年代は情報がありません。例えばドイツ人兵士が収容所に連れて行かれ、そこを収容所と知らずに、顔見知りのユダヤ人に手を振った、という証言もありました。また、「あそこでは〜〜しているらしい」というように、噂されていたものの明らかにはならない声も多くありました。

先ほどの防衛本能もあったでしょう、終戦を境に英雄の行為が犯罪に変わるわけですから、自分の歴史でさえも「〜〜に憧れて〜〜した」を、「当時は〜〜に憧れて、〜〜と知らずに〜〜した」「加担したが、直接は〜〜していない」のように、言い訳を加えなければならないのです。

もちろん情報がありすぎる今、私たちは「正しい」情報を掴めるとも限りません。ただ、当時の「知らない」とは桁違いですよね。

ドイツの組織力

ご存知の方も多いと思いますが、ドイツは非営利団体が全国で組織化しており、政府や地方自治体と協力して公的支援に当たっています。政府のお目付役でもあり、大戦の反省を意識した体制と考えられます。

戦時下では青少年組織である「ヒトラーユーゲント」(ユーゲント=青少年)が活発に活動していました。つまり、ボーイスカウトのような団体を国が管理していて、運動などの体づくりを地区ごとにしていたことになります。

そして、兄貴は泳ぎがうまくて憧れ!上級生は早く走れて憧れ!僕も早くあのバッジと手帳が欲しい!というように、とにかく純粋な動機と共に組織の活動をしていくわけです。夏休みのラジオ体操みたいなものでしょうか。スタンプ押してくれるとか、ヤクルトくれるくらいの動機で、行けるのです。そうやって自然にリクルートしていったことも、ドイツのお国柄として強かったのかもしれません。

また、幹部は皆さんエリートです。当時のエリートと言ったら本当にエリートです。自分は選ばれて高い役職に就き、ドイツのために尽力した、そのピュアな思いしか残っていません。

監督の立場

ルーク・ホランド監督は、祖父母をナチスに殺害されたそうです。本作品を完成後、他界されたとのこと。

監督がお伝えになりたかったことは、冒頭に出てきます。

「生まれながらの犯罪者はいない。作られるのだ」

取材に登場する全員が謝罪したとしても、監督の気持ちが晴れることはないでしょう。ただ、ドイツ人も家族を愛したり、仕事がほしかったり、仲間を助けたり、という感情を持った生き物で、恐怖に怯えていた、生きるのに精一杯だったことは、同じように思います。

ただこれがたった80年前に起きたことだとすると、加害者が旅立ってしまった後も、生きている人たちで、過ちを繰り返さない責任がある。それをドイツは国として、明確に打ち出していると私は認識しています。

ドイツも多くのドキュメンタリーを製作していますが、本作はアメリカとイギリスの合同製作でした。つまりアメリカもイギリスも、そしてこれを配給した日本も、伝えたい平和のメッセージがあります。戦争に反対でも、戦争を止めることができない人はたくさんいて、私もその一人。平和は一日にしてはならないからこそ、積み上げていく。その覚悟を、製作者からも配給者からも、感じた一本でした。

海外のレビューを見ると、多くは1985年のフランス映画『SHOAH ショア』を引用しています。9時間を超える大作ですが、こちらも見てみたいと思いました。

公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/finalaccount

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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