ある種の体感ムービー、見てから物申せ!『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021)
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
ウェス・アンダーソン監督を知っている方は、おそらくインディー系の映画がお好きです。本作が10作目と言うことで、私も『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)や『犬ヶ島』(2018)は見ていますが、話の内容よりはビジュアルが印象に残っている感じ。
そうすると、ウェス・アンダーソン監督の新作、と言うだけで「行く」部類に入ります。もちろん、ベニチオ・デル・トロやフランシス・マクドーマンドが出演していることも、行きたい理由に数えられますが、『犬ヶ島』でも分かるように、ウェス・アンダーソン作品の豪華キャストはもはや常識。
しかし、実際に見ると、これがまた、批評家泣かせでもあります。早速、ひと言頑張ってみます!
『フレンチ・ディスパッチ』へのひと言
私の『フレンチ・ディスパッチ』への印象です。
分かっても分からなくても進んでいく、異次元の絵本。
映画批評サイト『Rotten Tomatoes』に、その通りのことが書いてありました。
批評家のコンセンサス… ジャーナリズム精神への愛情にあふれる頌歌であり、ウェス・アンダーソンの細部にまでこだわった美学のファンなら、楽しめる作品。
https://www.rottentomatoes.com/m/the_french_dispatch
ファンの声… 話はちょっと難しい。でも、ウェス・アンダーソンのファンなら、見ないわけに行かない。
動いているのにまるで絵のように見える、これがタブロー(tableau、絵画)効果です。アンダーソン監督の作品では、実際にストップモーションで役者陣が止まることもあれば、見開きの絵本の上で演者がトコトコ歩いている雰囲気もあれば、オムニバス形式でページをめくると「はい、次の話」のような割り切り感もある。とにかく、不思議と、映画(motion pictures)なのに静止している、絵本感が強いです。
そして、画面、暗いです!たまにモノクロです!売れる映画の真逆を平気で暴走している。監督たらしめるビジュアルが、ガンガン来てますね。
「神の目」で酔い気味
映画の中で、あたかもカメラがなかったかのように人物や風景を描写する時、「omnipotent view」「omnipotent gaze」と言う用語を使います。全能の視線、「神の目」とも表現されます。
この作品で、「神の目」は多用されていましたが、「神の目」を固定して、実際の場面がどんどん展開するような忙しさがあります。本来「神の目」は自由なはずなのに、ある意味見せられているような、窮屈さや束縛感を感じます。車酔いのような感じもあります。
ここも、1シーンを絵本の1ページと考えると、自然でしょうか。
ティモシー・シャラメ奮闘!瑞々しいキャスト
私見ですが、映画には未来を見たいので、若々しさが大事だと思っています。ベテランキャストが名を連ねる中で、学生運動のリーダー、ティモシー・シャラメは最高でした。正義感、テキトー感、無鉄砲さ、などなど。
フランス語しか話さないリナ・クードリも印象的です。
この2人が第2話に出てくるのですが、明らかにセットである夜の空に、まるで星が流れてきそうな可愛らしさがあります。
リナ・クードリの出立ちは、『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグにも見え、ゴーグルは『イージー・ライダー』感もあり。アルジェリア出身の女優さんなのに、アメリカ映画とフランス映画を行き来しているような感じです。
知らないと分からない、『ザ・ニューヨーカー』
予習していかなかったこともあり、この文脈は全く押さえることができませんでしたが、『フレンチ・ディスパッチ』という架空の雑誌には、元ネタがあり、1925年創刊の老舗雑誌、『ザ・ニューヨーカー』とのこと。現在も125万部を売り上げ、表紙がいつもイラストなんですね。
作品中は、英語とフランス語が入り混じりますが、アメリカ人の見るフランスは『アメリ』のようにオシャレだし、その意味で、先日見た『スティルウォーター』と大違いでした。
ダジャレか分からないような名前も出てきますが、カタカナだと理解しづらい。編集部の所在地であるアンニュイ・シュール・ブラゼは、アンニュイ(退屈)とブラゼ(無気力)、つまり「無気力ゆえの退屈」(参考文献はこちら)。前作の『犬ヶ島』も、言葉遊びをしていますが、地名とするなら「退屈区無気力町」とかそんな感じでしょうか。
第3話で出てくるアジア人シェフの名は、ネスカフィエ。エスコフィエ(フランス料理伝説のシェフ)にネスカフェを文字ってしまった…。ネスカフィエと聞いて、怪しいと思った私は検索してエスコフィエに辿り着いたけど、これって『聖☆おにいさん』と同じで、見る側に教養が求められるパターン!
その辺りも全部、ウェス・アンダーソン脳内に連れていかれる感があります。そして、連れていかれる感を楽しんでいる、私たち。
あー、この「とっつきにくさ」もまた、愛される理由になるんでしょうね。
クセになります、ウェス・アンダーソン。
もう一度観なきゃと思わせてくれる『フレンチ・ディスパッチ』が、大好きだ!
作品ページ:https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html