主人公の心のうちは見えない、青山真治監督の『空に住む』

映画『鬼滅の刃』が公開した先月、周りに勧められてアマゾンプライムで予習を始めたのですが、「ウォー、ウォー」という鬼のうめき声に耐えられず第2話でストップ。それを友人に話したら、「鬼だからね」とあっさり。

こんにちは、映画ひと言ライターのJunkoです!

青山真治監督の最新作、『空に住む』(2020)を観てきました。

小竹正人さんによる原作があるのですが、こちらは未読です。

ではさっそく、ひと言に参ります。

『空に住む』へのひと言

これ、間違いなく「多部未華子映画」、多部未華子さんをずっと見ていられる作品です。ファッションもたくさんのブランドが名乗りを上げ、モデルさんのように着こなしてきれいだし。

恐ろしく波乱万丈なのに、恐ろしく浮遊。

公開されている範囲で言うと、物語では身近な人の死であったり、通常出会えない有名人の急接近であったり、小さいいのちが誕生したり、重量級の出来事が続きます。普通の作品であれば、それ一つに2時間使ってしまいそうな。

それが、あまりにも淡々と起きていく、というよりはどう受け止めているのか分からない主人公がいるのです。だから多部さん演じる直実に興味を持つけれど、心のなかが見えない。その意味で、「主人公に感情移入させる」映画とは、一線を画しています。

作品の全体の空気感を見ると、まさにタワマンの上層階のような、地に足がついていない感じ。そして、天気も晴れなのか曇りなのか雨が降っているのか、よく分からない感じ。これが、青山真治監督が得意としている、時代感の反映なのではと思います。

タワマンに物申す

『空に住む』というタイトルを聞いた時、どんな映画かまったく想像つきませんでしたが、タワーマンションに住むことになった主人公の物語でした。そうなると、『空に住む』はいい意味でタワマンのキャッチコピーみたいですよね?

しかし、スクリーンではまるでモデルルームのような空間に暮らしている人々の刹那的な側面や、上辺だけの人間関係を、よく捉えています。高く行くほどに、希薄になる感じ。

主人公が24時間換気システムをいじるシーンがありますが、身体的に息はできても心理的に息苦しい、そんな感じでしょうか。主人公と一緒に引っ越してくる黒猫は、もっと繊細にキャッチしているかもしれません。

Photo by Laís Regina from Pexels

アンチタワマンとまでいかないまでも、編集者の直実が通う職場は古い木造一軒家、床に座ってちゃぶ台の高さの机で仕事するスタイル。バランスを取っているのかもしれない、そんな風に感じます。

私も大地の力を感じて生きたいタイプなので、タワマンに住む方の選択は尊重しつつ、自分は住みたいと思わないのです。監督もきっと、浮遊感をタワマンで表現されたのかな、と推察しています。

主役級脇役のラインアップ

さてさて、先に「多部未華子映画」と書いたことに間違いはないのですが、それ以外にいつも主役を張っているような役者さんがバンバン登場するところがスゴイですね。ちょっと多すぎる印象は受けましたけれども。大森南朋さん、鶴見慎吾さん、永瀬正敏さん。7年ぶりの青山監督作品ですから、皆さんここぞとばかり出たかったのだろうということは、想像できます。

エンドロールに役者さんの名前が出てくるところで、よく誰が一番最後に出てくるか当てっこするのですが、ご覧になる方もぜひ注目して下さい。

あと、主人公の職場仲間で近しい存在として、岸井ゆきのさんも素晴らしいです。役どころのフレンドリーなところ、軽はずみなところ、ちょっとイラっとさせられるところ、強さも弱さもすべて体現している感じ。NHK朝ドラの『まんぷく』での記憶がありましたが、ぜひ主役で観てみたい俳優さんです。

有難うございました。

『空に住む』の青山監督ワールド100%、多部未華子さん100%な感じが好きだ!

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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