一人称と二人称でみる歌謡曲の世界観
つくづく、日本語は一人称(わたし)や二人称(あなた)を省略する言語だと思います。
これを話すと色々な方向に散らかるので、今回は人々が思いを乗せる歌、ラブソングを検証してみます。
このサイトではさまざまな価値観を大切にしていますが、今回の話は異性が恋愛対象と仮定して話を進めます。
ラブソング 女性から男性編
松田聖子さんの「赤いスイートピー」(1980)
一人称 なし
二人称 なぜ知り合った日から 半年過ぎても あなたって手も握らない
森高千里さんの 「私がオバさんになっても」(1992)
一人称:私がオバさんになっても 本当に変わらない?
二人称:とても心配だわ あなたが 若い子が好きだから
宇多田ヒカルさんの「Can you keep a secret?」(2001)
一人称:なし
二人称:近づきたいよ 君の理想に おとなしくなれない Can you keep a secret?
AKBの「恋するフォーチュンクッキー」(2014)
一人称:私にまるで興味ない
二人称:あなたのことが好きなのに
この40年、概ね自分を「私」、相手を「あなた」で変わっていません。宇多田さんのように少し少年らしさを残した方の場合、相手を「君」とすることもあるようです。
ラブソング 男性から女性編
近藤真彦さんの「スニーカーぶるーす」(1980)
一人称:五分だけでもいいから 俺の話を聞いてよ
二人称:Baby スニーカーぶるーす Baby お前が好きさ
Mr. Childrenの「innocent world」(1994)
一人称:Ah 僕は僕のままで ゆずれぬ夢を抱えて
二人称:Ah 君は君のままで 静かな暮らしの中で
SMAPの「ありがとう」(2006)
一人称:どんな時でも 僕に勇気をくれるみんなが 僕の言う希望
二人称:泣かせてきた人の心 もう見たくない君の涙
米津玄師さんの「orion」(2017)
一人称:弾ける火花みたいに 僕をぎゅっと困らせた
二人称:あなたの指が その胸が その瞳が
1980年代は、今見るとちょっと粗野な感じを受けます。2019年、自分のことを「俺」はアリですが、相手を「お前」はあまり嬉しくないかも。米津さんは丁寧な感じもあって、「あなた」ですね。 私の青春ソング、ザ・ブルーハーツ も80年代ですが「あなた」です!
時代の流れと結論
歌を十数曲検証する中で、特に宇多田ヒカルさん、安室奈美恵さんあたり以降から、英語が多用される時代に入ります。そうすると、「あなた」の代わりに英語でYouが出てくる。
また、2010年以降は男女を意識させない流れも来ているように思います。
モーニング娘。の「Everyday、カチューシャ」(2011)などの楽曲は秋元康さん作詞で、一人称は「僕」二人称は「君」です。
感覚的には、男性よりも女性の方がシームレスに、境界を超えることを楽しんでいるように思います。
SEKAI NO OWARIの「サザンカ」(2018)では、一人称が「僕」二人称が「君」なのですが、作詞はFukaseとSaoriのお二人で担当されています。
男性ボーカルFukaseさんは、私には女性ボーカルと思えるほどに、高く澄んだ声の持ち主。男性も女性も共感できると思える曲でした。
このように、ラブソングの男女別に一人称・二人称の習慣があるものの、歌う側も聴く側も性別関係なく自分を乗せられる、そんな気がします。 NHK「紅白歌合戦」での赤組・白組の分け方はもう時代に合わない、という声を聞くのと似たような感覚かもしれません。