「この子は翔じゃない」と言えるまで―『箱の中の羊』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

是枝裕和監督の『箱の中の羊』(2026)を見てきました。ヒューマノイドが登場する、少し未来の作品です。

『箱の中の羊』へのひと言

近未来映画というより、喪失を受け入れていく過程を描いた作品。

主人公の夫(大悟)と妻(綾瀬はるか)は、交通事故で幼い息子を失います。そして、少し宗教がかったテック・カンパニーのお試しキャンペーンで、息子の情報が入った、息子そっくりのヒューマノイドを家庭に招き入れます。

まず驚いたのは、翔(かける)という息子のヒューマノイドの存在感。演じた桒木里夢さん(Instagram)は、男の子とも女の子とも見えるような可愛らしさがあります。実際は人間が演じているので、少し白い化粧をしているのか、ホラー映画にあるような、どこか人間とちがう不気味さがある(褒め言葉)。本当にそこにいる子どもに見えつつ、食べ物もいらないしトイレも行かない、夜は充電チェアに座るなど、まるで「手のかからない子ども」。

だからこそ印象的だったのが、ヒューマノイドに入れ込んで暮らしていた母親が、最後に「この子は翔じゃない」と認める場面。

最初は当然、亡くした息子の代わりとしてヒューマノイドを見ている。しかし同時に、息子ではないことも分かっている。その事実を認めたくない気持ちと、分かっている気持ちの間で揺れ続ける。

お試しキャンペーンを経て、サービスを継続も中止もできる。翔はやや反抗的だったり、冷ややかだったり、少し駆け引きもあります。

だからこそ、母親の「この子は翔ではない」の言葉が重い。ヒューマノイドの否定ではなく、息子の死を受け入れ始める明確な瞬間として、存在していました。

リアルとノット・ソー・リアル

本作で面白かったのは、大悟(千鳥)の起用です。いわゆる俳優らしい整った芝居ではなく、普段のテレビで見ている大悟という感じ。食べ方ひとつ取っても生活感がある。

綾瀬はるかさんは、どうもSK-IIのイメージが強くて女優さんということも抜けていたけれど、二人は実際に暮らしている夫婦、つまり「いそうな」夫婦に見えました。

一方で、夫婦が暮らす家は建築に詳しい人が立てたゆえの注文住宅だからか、妙にきれいで広く、少し現実離れして見えました。ヒューマノイドや夫婦の生活感はリアルなのに、家だけはドラマのセットのような印象があり、そこには少し違和感を覚えました。むしろ近い将来こんな生活が手に届くのなら、嬉しいけど。

ラストシーン

最後の静止画のようなショットは、強く印象に残ります。現実と過去、記憶と感情、こういった境界が曖昧になるような瞬間。映画を見終わったあとも、その光景が特別に思い出されます。

熊野の大トチ(Google Map)。広島県庄原市にあるのだそうです。役割を終えた、もしくは傷ついたヒューマノイドがホームとするのがこの大自然ということも、物語としてとても面白いです。

作品では、ヒューマノイドが木に手を当て、呼吸を合わせるような場面が何度か登場します。人工的に作られた存在なのに、どこか人間的な仕草。

そしてヒューマノイドの多くは子どもだからこそ、私たちはそこに無垢さ純粋さを重ねてしまうのかもしれません。是枝監督作品には、やはり子どもの存在が欠かせませんね。

人間もヒューマノイドも、大きな歴史の中では自然から生まれた存在なのかもしれない。そんな不思議な感覚を残すラストでした。

今日はこの辺で。

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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