少年のまま世界を変えた人――『Michael/マイケル』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
2026年6月12日に公開したての『Michael/マイケル』(アントワーン・フークア監督、2026)を見ました。
マイケル・ジャクソンについては、同時代を生きた人として近い存在でした。ジャクソン5のことはほとんど知らないのですが、世界的に存在感を見せつけた『Thriller』やムーンウォークかな。後年は外見の変化ばかりが話題になり、「お騒がせセレブ」のような印象を持っていました。
この映画を観て、「マイケルというスター誕生」について理解できたのが、よかったと思います。
『Michael/マイケル』へのひと言
人種の壁を越えた少年。
映画の中で印象的だったのは、『Billie Jean』をMTVで流すための交渉です。
私は『Thriller』の爆発的なセールスを想像していましたが、その前に『Billie Jean』という重要な一歩がありました。
当時はMOTOWN(モータウン)に代表される黒人音楽と、MTVに代表される白人中心の音楽メディアとの間に、今では想像しにくい壁がありました。アメリカ史を専攻していたけど、知らない事実でした。
そしてヒットチャートがあり、毎週順位を競う、そんな時代でした。
マイケルのファンは白人も黒人もいたと思いますが、「白人に愛された黒人スター」だったというより、人種の壁を越えてしまった最初のポップスターと見るのがいいのかもしれません。
永遠の少年
この映画で少し意外だったのは、恋愛や性的な側面がほとんど描かれないことでした。
もちろん現実のマイケルは、リサ・マリー・プレスリーと結婚もありましたし、それまでも恋愛の報道はされていました。しかし映画の中の彼は、色恋の噂が立つ青年というより、音楽と創作に夢中な少年として描かれています。
チャップリンの映画を見て笑い、ピーターパンを愛し、動物たちと過ごす。チンパンジーのバブルスも登場します。
そして改めて気になったのは、なぜマイケルはあんなに高い声だったのか、ということです。話し方もソフトで、どこか少年のようです。
恋愛や性的な側面がほとんど描かれないことも含めて、映画のマイケルは大人の男性というより、いつまでも少年であり続けようとしている人のように見えました。
幼い頃からステージに立ち続け、普通の子ども時代を過ごせなかった人。そのことは後年のネバーランドにもつながっていくのでしょう。
優しい人、そして強いクリエイター
作品中のマイケルは、繊細で優しい人として描かれており、過去のマイケルの映像など見ても、その印象は変わりませんでした。
しかし同時に、ただ優しいだけの人ではなかったとも思います。父親ジョセフから強烈な支配を受けてきたため、父親なのに「Dad」ではなく「Joseph」と呼んでいたことも特徴的。そうした抑圧が、自分が何者で、どうありたいかを考える原動力にもつながっていたのでしょう。
今回初めて知ったのは、マイケルには作詞作曲した曲が多かったことです。『Billie Jean』『Beat It』『Bad』など。さらに、頭の中にあるリズムをビートボックスのように周囲に伝え、自分の理想のサウンドを形にしていく。「アッ」というような漏れる声も、全部脳内にあるリズム。歌い、踊り、作詞し、楽曲のイメージを組み立てていきます。
そこには強烈な自己意識があります。
自分は何者で、どんな作品を作りたいのか。世界にどう見られたいのか。
鼻の整形についても触れられていたのですが、外見も含めて「自分」という存在を人一倍意識していた人だったのでしょう。
マイケルにはクリエイターもしくはアーティストとしての強い意志があったと感じました。
甥っ子くんの演技
本作でマイケルを演じるのは、ジャファー・ジャクソン(甥っ子)でした。
関係者が存命で主役のマイケルが他界している状況。本作はマイケルの遺産管理団体や家族の協力を受けて制作された作品です。
興味深いのは、監督のアントワーン・フークアもアフリカ系アメリカ人であること。この作品を誰が監督するかという点も、製作側が十分議論を重ねた結果なのだろうと思いました。
マイケルの父、ジョセフは2018年に89歳で他界していますが、マイケルの母キャサリンも、マイケルの兄弟たち(10人兄妹のうち、マイケルとTitoは他界)も、敏腕弁護士のジョン・ブランカも皆さんまだ存命。話をまとめるのが大変だったでしょうね。
ジャファー・ジャクソンは役を全うしましたが、マイケルより少し筋肉質の印象。どうしても比べてしまいますが、マイケルは本当に細マッチョで、ジャファーよりも太ももが細かったなという記憶です。
もっと見ていたかった
伝記映画というのは、どうしても人生のダイジェスト版になりがちです。
ところが『Michael/マイケル』はちがいました。長さが2時間なのは知っていましたが、画面が暗転しエンドロールが始まった時、「え、もう終わり?」と思ったのです。
隣に座っていた若い女性2人は、「『We Are the World』が出てくると思ったのに出てこなかったね」と話していました。たしかに。
マイケルについてもっと知りたいと思わせる映画。それは伝記映画として成功ですが、本作は「スターダムにのし上がるマイケル」を描きたかったんだなと思いました。
だからこそ『We Are the World』も描かれないし、後年の人生にも踏み込まない。この取捨選択によって、映画は「マイケルの人生」ではなく、「マイケル誕生の物語」になっていました。
『Michael/マイケル』は、マイケル・ジャクソンという人物への興味をますます深めてくれる作品でした。
そして、大きな音が苦手な私も、見終わったあとに「轟音シアターでもよかったかもしれない」と思いました。
今日はこの辺で。