才女ジョディ・フォスターが迷走?『プライベート・ケース』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
『プライベート・ケース』(レベッカ・ズロトヴスキ監督、2025)を観てきました。ジョディ・フォスターが出ているから、の一択です。原題は、「Vie privée」プライベート・ライフ(私生活)の方ですね。
『プライベート・ケース』へのひと言
ジョディ・フォスターだから成立する、ちょっとおかしなサスペンス。
ジョディ・フォスターはなぜフランス語が上手い?
ジョディ・フォスターと言えば、どの作品が思いつくでしょうか。
『タクシードライバー』(1976)の少女娼婦アイリスから知る人もいれば、『羊たちの沈黙』(1991)のFBI訓練生クラリス(映画だとクラリース)の印象が強い人もいるでしょう。
『タクシードライバー』に出演時は13歳で、アカデミー賞助演女優賞にノミネート。
その後、『告発の行方』(1988)『羊たちの沈黙』で主演女優賞を2度受賞。子役から大人の俳優への転身が難しいハリウッドで、これだけ見事なキャリアを歩んできた人も珍しいと思います。
そんなフォスターについて、昔から「才女」の証のように語られてきたのが、流暢なフランス語と、名門イェール大学卒業という経歴。
フォスターは幼い頃からロサンゼルスのフランス語教育校、Lycée Français de Los Angelesに通い、フランス語で教育を受けています。実は若い頃にフランス映画への出演経験もありますが、フランス語作品で主演を務めるのは本作が初めてだそう。そのジョディ・フォスターの知的で聡明なイメージそのものが、今回の役にも生かされています。
『羊たちの沈黙』を思わせる? 劇中歌はTalking Heads「Psycho Killer」
ジョディ・フォスターといえば、やはりサスペンス。『羊たちの沈黙』のクラリスの印象があまりにも強く、彼女が一人で歩いているだけで、「後ろから誰か出てくるのでは?」と、こちらが勝手に身構えてしまいます。
そんな観客の記憶を知ってか知らずか、本作で流れるのがトーキング・ヘッズ(Talking Heads)の「サイコ・キラー(Psycho Killer)」。1977年に発表された、アメリカのロックバンドを代表する一曲です。
歌は英語で、頭にこびりつくフレーズ満載ですが、突然フランス語の qu’est-ce que c’est?(「これは何?」)が入り、さらに意味を持たない fa-fa-fa-fa を挟み、Run, run, run… が続きます。
フランス映画の中で、ここだけ妙にアメリカン。
しかも、アメリカ人でありながら流暢なフランス語を話すフォスター本人とも重なります。「サイコ・キラー」というタイトルも、精神科医を主人公に殺人の疑惑を追う本作には出来すぎた選曲です。医者に向かって、「あんた、イカれてんじゃないの?」と突きつける感じ。
これでいよいよサスペンスが始まるのかと思いきや、映画は期待した方向から少しずつ外れていきます。元夫を巻き込んだ素人探偵のような展開になったかと思えば、催眠療法では幼少期や過去世の記憶まで登場する。
フォスターだから勝手に緊張してしまう観客と、その期待をするりとかわしていく映画。ややとり散らかり感がありますが、このズレが本作のおかしみの一つでした。
マチュー・アマルリックにフレデリック・ワイズマン――脇役も豪華
ジョディ・フォスターだけでなく、脇を固める俳優たちも豪華です。
まず、リリアンの元夫ガブリエルを演じるのは、フランスを代表する名優ダニエル・オートゥイユ。『橋の上の娘』(1999)『隠された記憶』(2007)などで知られます。フランスでは長年俳優・監督として活動していますが、日本のスクリーンで観る機会はまばらな感じもあり、大物感を放ちつつ、すぐに誰とは分からない状況でした。
この元夫は、リリアンの妄想である「自分の患者は、家族に殺されたのでは?」という疑いに付き合い、一緒になって事件を調べ始める。二人が並ぶと、殺人事件を追っているはずなのに、どこか素人探偵コンビのようにも見えてきてコミカル。フォスターとの軽妙な掛け合いも、本作が単純なサスペンスにならない理由の一つでしょう。
そして、亡くなった患者の夫を演じるのがマチュー・アマルリック。どこかで見た顔だと思ったら、黒沢清監督、柴咲コウ主演の『蛇の道』(2024)にも出演していました。主演もできるし、悪役もできるフランスの実力派俳優です。
さらに、一度見たら忘れないお顔である、フレデリック・ワイズマン。リリアンがアドバイスを求めるゴールドスタイン医師を演じています。
ワイズマン監督といえば、ドキュメンタリー映画の巨匠(2026年没)。私は『高校』(1968)を観たときに衝撃を受けました。ナレーションもインタビューもなく、観察により組織の権力関係を浮かび上がらせる。ほかにもさまざまな集団を取り上げて、最近では本ブログでも取り上げた『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』などがあります。
本作でも撮影を担当?と思いましたが、今回は演者としての出演。しかもWiseman=「賢者」ですから、リリアンが助言を求める医師役というのも、なんだか出来すぎています。
ジョディ・フォスターとダニエル・オートゥイユを中心に、マチュー・アマルリック、そしてフレデリック・ワイズマン。映画好きなら「あ、この人!」が次々と出てくるキャスティングも、本作の楽しみの一つです。
『プライベート・ケース』は殺人事件より「思い込み」の映画?
さて、リリアンは優秀な精神科医なのでしょうか。
亡くなった患者の夫から「あなたは妻の話をきちんと聞いていなかった」と責められます。しかし、自分ではそれをなかなか認められない。それどころか、患者は自殺したのではなく、殺されたのではないかと考え始めます。
他人の心を読み解くことを仕事にしている人が、自分自身の思い込みには気づかない。
そんなリリアンが興味を持つのが催眠療法です。患者の禁煙療法から始まって、どこか懐疑的だったのに、自分までそのクリニックを訪れて催眠を受けてしまう。そして、幼少期の記憶、はてまた前世らしきものまで見えてくる。
リリアン自身が信じたい物語は、何なのでしょうか。
他人の心を分析していたはずのリリアンは、いつの間にか元夫との関係や家族、自分自身の記憶へと向き合うこととなります。表向き、「殺人事件」を追っている体で、結局は自分のこころの中を探索することになる。
ジョディ・フォスター自身も、子役時代から第一線を走り続け、アカデミー賞を2度受賞し、イェール大学を卒業した「できる人」のイメージがあります。私は彼女のこのシャープで屈しないイメージが大好きです。
だからこそ、「自分が間違っていたかもしれない」となかなか認められないリリアンを演じるフォスターが面白い。2人が重なって見えてくるからです。
サスペンスかと思えばコメディになり、殺人事件かと思えば催眠や前世まで出てくる、寄り道多き映画です。でも最後に見えてくるのは、他人の心を分析することを仕事にしてきた人が、「もしかしたら私は、他人はおろか自分のことすらちゃんと見えていなかったのではないか」と気づく怖さ。
シャープで屈しないジョディ・フォスターだからこそ、その脆さが面白い。私には、そこが本作一番の見どころでした。
今日はこの辺で。