今こそ『ロングバケーション』!

この状況で、「突然来た夏休み」っていうつぶやきがあるみたいです。そう来るなら、1996年のテレビドラマ、北川悦吏子さん原作の『ロングバケーション』を紹介せねば。

わたくし史上ナンバーワンの『ロングバケーション』なので、ロンバケ愛を綴りたかったのですが、今日は少し控えめに…「ロンバケ」の由来と、ついでにどこが1990年代っぽいかを書いておきます。なお、私が2000年代に台湾で購入したVCDから画面キャプチャを起こしていますので、画質が荒くて失礼します。

(C) フジテレビ

神様がくれたお休み

結婚式当日に新郎に逃げられたばかりの南(山口智子)。第2話、瀬名(木村拓哉)は生徒に傷つくひと言を言われた日でしたが、家で美しい音色のピアノを奏でます。そこへパチンコを終えた南が帰ってきます。

南がサントリーのビール缶を片手に、瀬名に話しかけます。奇しくも、映画『卒業』の話に。

(C) フジテレビ

南:『卒業』って映画見た?
瀬名:うん。
南:花嫁が結婚式当日に他の男とバス乗って逃げちゃうやつ。あれってさ、逃げた方って結構ドラマだけど、逃げられた方ってどうなったんだろうね。
瀬名:脇役にはスポットライト当たらないじゃん。脇役のことなんて、カメラ追いかけないしさ。鉄則だよ。
南:映画の?
瀬名:人生の。
南:ふーん。んー。いつになったら出番が来るんだか。何やってんだろう、私。一日パチンコやってた。
瀬名:ねぇ、こういうふうに考えるのダメかなぁ?ながーい、お休み。
南:ながい、お休み?
瀬名:おれさ、いつも走る必要ないと思うんだよね。あるじゃん、何やってもうまくいかない時。何やってもダメな時。そゆときは、なんていうの、言い方変だけど、神様がくれたお休みだと思ってさ、無理に走らないこと、焦らない、頑張らない、自然に身をゆだねる。
南:そしたら?
瀬名:よくなる。
南:ほんとに?
瀬名:たぶん。
南:たぶん。(笑顔)カンパーイ。
瀬名:なんで?
南:なんとなく。カンパイ。

30歳を過ぎた南の、人生の迷い。さりげなくフォローする瀬名。カンパイを提案するチャーミングな南。ドラマを通じて散りばめられているセリフの可愛さが、北川先生ワールド炸裂な感じです!

1990年代ぽさ

まず喫煙率高いのが、90年代。瀬名も吸う、南も吸う。クラブで吸う、パチンコ屋で吸う。南の弟も吸う、瀬名の恋敵も吸う。ちなみに私の当時のアルバイト先も、禁煙・分煙されていませんでした。

山口智子さんは、膝上10センチのミニスカート、ピタピタパンツ、へそ出しと、カラフル&バブリーな衣装でから元気に振舞います。サバサバした山口さんは、ボーイッシュにパンツ多めですかね。木村さんはピアノの先生なのでスーツ率が高く、パンツの裾は狭め。

(C) フジテレビ

登場人物の住まいがバブリーなのは、致し方ないですね。瀬名さんちのマンション、グランドピアノにダブルカウチです。

今となってはレジェンドの久保田利伸さん(静岡県民!)の主題歌も、ドラマはソウル&ファンクじゃないのに、イケイケな感じが合っていました。

https://en.wikipedia.org/wiki/File:ToshinobuKubotaLaLaLaLoveSong.jpeg

逆に、今はもうちがう文脈となっているのが、30歳を過ぎた女性の社会的イメージ。自身も世間も、オーバー30の結婚を「行き遅れ」的に低く見てしまう時代でした。ピアノを弾く男子も、「女々しい」かよほどのお坊ちゃまな雰囲気でしたが、今では珍しくなくなりました。そしてマンションを異性の他人とシェアすることも、当時の日本ではほとんどなかったです。今はシェアハウスもありますが、男1女1のシェアは、兄妹以外には少ないですよね…。

(C) フジテレビ

2020年のバケーション

ここまで書いて、今年の「突然来た夏休み」的な状況は、ほぼ四半世紀前となる『ロングバケーション』と全然ちがうことが分かりました。

「頑張ってもがいてきた人」なら、少しスローダウンしてもいい、まだまだ時間があるんだから、という若者へのメッセージなんだと思います。でもそんな「バケーション」にあるのかもしれない登場人物たちも、本当にまっすぐで、悩みながら、次のステップに向かって100%体当たりしていきます。南さんも、新しい仕事を始めたり、瀬名さんもコンクールに挑戦したり。

(C) フジテレビ

そして今の感覚で見ると、人間関係も限定的な感じもします。知り合える範囲でつながっている、その中でくっついたり離れたり、思いを寄せたり嫉妬したり。瀬名と南のマンションがハブになって、いろんな人が遊びに来ます。送りに行ったり、留守電聞いたり、置手紙したり。スマホがある現在は、もっといろんな人とつながれるけれども、手軽な分浅いですから。

2020年は、今までやってきたことを見直す、棚卸する、そんな捉え方をされている方は多いと思います。『ロングバケーション』に倣って、今はのんびり…というのはちがうかも。それよりも、自分の本当の気持ちに嘘をつかないこと。自分のカッコ悪いところも見せて、相手のカッコ悪いところを受け入れる。通しで見ると、南と瀬名がお互い気づかって寄り添っているバディ感、いいですね。

(C) フジテレビ

『ロングバケーション』を言い換えるなら、瀬名のやさしさ。ここで2020年の今とつながります。人を思う気持ち、愛おしさ。その価値を、忘れないでいましょう。

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

おすすめ