弱者がつむぐ強者の物語、『落下の王国』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

本日は、4Kのリバイバル上映をしている『落下の王国』(原題The Fall、ターセム監督、2006)。予告を見てぜひ足を運びたいと思いました。どうやらよい時間帯は満席が続いているようなので、早めの予約をお勧めします。

『落下の王国』へのひと言

弱いから、愛おしい。

この映画は、事前にあらすじを読むこともお勧めしないし、あらすじを伝えることも私はしたくありません。目の前に展開するものをどう感じるかがすべてなので。

唯一伝えてもいいかなと思うのが、この物語に出てくる若い男ロイ(リー・ペイス)と、幼い女の子アレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)。この二人が、どちらも一人前の大人からしたら10%くらいしか社会的な役割を果たしていない。つまり怪我で入院していて、生産的な生活を送れていない。

でもそんな二人が生み出す世界が無限大にあり、空間も色彩も豊かで自由であること。そこがポイントです。一気に虜になります。観客は、自分が子どもの頃、親もしくは身近な大人に物語を読んでもらっていた時の記憶に戻ります。

無国籍映画

もう一つ面白いのは、本作品がターセムというインド出身の監督であり、ハリウッド映画でもボリウッド映画でもない不思議な空気に包まれています。(ゴレンジャーみたいな)ヒーローたちの風貌はバラバラ。

中央がマスクの盗賊。リーダー的存在。

緑がインド系のミスティック。(東洋人いなかったけど、彼がアジア代表ですね。)

黄色がルイージ、爆薬を作るイタリア職人。

赤がチャールズ・ダーウィン。イギリス人的。あのダーウィンのように動物研究者。

茶がオッタ・ベンガ、元奴隷で、奴隷解放への高い意識を持つ。

これが子どもでも分かるように、復讐劇のようなざっくりとしたあらすじはあるとして、なぜこの共通項がなさそうな男たちが一緒に旅をするのかが、面白いものです。

悪者はオデウス総督。一味は皆ダースベイダーのような黒を着ています。

言語は英語で進むものの、アメリカンアクセントをまくし立てることもない。旅をして砂漠や宮殿や海岸が出てくるから、世界のどこにいるのかが分からなくなる。まさに無国籍。

そして絶世の美女も出てきますが、本作の主人公たちは圧倒的に男性。特に盗賊と黒人はムキムキの筋肉をあらわにし、ビジュアル的にはクイアー作品ではないかと見間違うほど、均整な体つきです。

マスクの盗賊はなぜ黒なのでしょうね。彼は「光を意識した影の存在」ということもあるでしょう。

女の子の多言語性

この女の子(5歳)も、たどたどしい英語で話すのですが、ネイティブと少し違う。ルーマニア語が母語だったようで、フランス語を混ぜたり、スペイン語を混ぜたり、「英語できるよ」アピールで英語を話したりと、ごちゃまぜです。

実際の撮影時も、アレクサンドリアには台本がない状態で、ロイとその場でやり取りした感じが自然に撮れたのだそう。

無邪気な子どもであることは伝わりましたが、日本語字幕からはこの多言語性は伝わりづらかったですね。境界線を行ったり来たりの感じが、言語にも現れていました。

旅と映画

私の好きなこと2つを挙げるなら、旅と映画。

本作は、世界中の美しい場所がロケ地になっていること。そして、映画への愛が詰まっていること。それだけで幸せな作品です。

映画への愛がどう詰まっているかは、ぜひ鑑賞して確認してください。

映画のコピー、「君にささげる、世界にたったひとつの作り話。」は実に的確。この作品、心から推します。

今日はこの辺で。

映画公式サイト:https://rakkanooukoku4k.jp/

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

おすすめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です