『ワン・バトル・アフター・アナザー』に見た世代の変化

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025)を、やっと観ることができました。

タイトルにある通り、次から次へと「戦い」の連続を描いているのですが、主人公たちはどんな「戦い」と戦っているのでしょうか。

ワン・バトル・アフター・アナザー』へのひと言

レオナルド・ディカプリオ、父になる。

本作はレオナルド・ディカプリオをはじめ豪華キャストが出演していますが、レオが「父親」を演じていることが時代の移り行きを感じさせました。

『バスケットボール・ダイアリー』時代からペンシル・ボーイと呼ばせていただいたくらい、棒のようにスキニー。プライベートでも、いつも20代のモデルと付き合うなど、およそ大人の男を感じさせず、ずっと「少年のまま」であったレオ。その彼が、やっと大人になり、ティーンエイジャーの娘を持った父親としてスクリーンに存在したことに、一つの新境地を感じました。

もちろん過去にも父親役を演じたことは何回かあるのですが、顔が童顔すぎてなかなかお父さんに見えない。そんな中、今回は父親らしい素振りを見せていて、可愛らしかったです。最後に父と娘が再会するときにも、ある小道具を持っていて、これが映画的にグッとくる演出でした。

ベネチオ・デルトロとショーン・ペンの両大関

ベネチオ・デルトロショーン・ペン、どちらも個性派監督が起用したい俳優ランキング上位に食い込む逸材でしょう。デルトロは最近ウェス・アンダーソン作品でも観ましたし、ショーン・ペンは『ドライブ・イン・マンハッタン』でもよれよれのタクシードライバーでした。

ショーン・ペンが演じるロックジョー大佐は、基地の上位職。ボブ(レオの役名)と彼のパートナーであるパーフィディア(テヤナ・テイラー)が属していた反政府組織「フレンチ75」がさまざまな事件を起こしますが、大佐はパーフィディアに足元を掬われた後、取り憑かれたかのように、執拗に彼女を追いかけます。この「フレンチ75」を一掃する作戦は続き、ロックジョー大佐は摘発することで職位をどんどん上げていきます。顔のこわばりや、たまに見せる奇妙な唇や舌の動きは、この大佐が無意識にそうしているかのように完璧でした。物語の終盤で、彼にはあまりにも恐ろしい結末が待っています…。

一方、ベニチオ・デルトロはメキシコ系の空手の先生です。彼の才能として、スペイン語と英語をボーダーレスに使っていて、この役にもピッタリ。革命家のレオでさえも焦ると、「Ocean waves…」と言って、波を感じるように、ゆっくり呼吸するように促します。レオは、「センセイ!」と言って慕います。

この空手の先生の子分というか、スケボー3人組もすごくかっこいいです。ロン毛で街をタテにヨコに駆け巡る。ぜったいに追いつけないスピードです。

一見無力な16歳の少女

物語の中心にいる16歳の少女ウィラ(チェイス・インフィニティ)は、この世界の新しい主役でした。ゲリラグループの娘として銃をぶっ放すこともありながら、彼女が一瞬、風の谷のナウシカのように見えることがありました。つまり、争いや破壊といった形で決着をつけるのではなく、理解と受容によって世界を動かせるかもしれない存在ということです。女性リーダーはこういうところが強いですね。

ロックジョー大佐が属する白人至上主義の団体も描かれますが、もう時代はこっちじゃないでしょう、ということが分かる空気感です。残念ながら差別的な団体が一掃されたわけではないものの、世代も交代する、かつての男性中心社会ではありません。

アンダーソン監督の作品には珍しい、世代交代的なテーマが描かれていたように思います。

最小構成の音楽

PTAのサウンドトラックはいつも記憶に残るものばかりですが、今回ジョニー・グリーンウッドが手がけたという音楽も際立っていました。ピアノの単音のみで構成されたシーンもあり、メロディがほぼないような「音だけのBGM」という感じでした。次に観る時は、ぜひ音楽にも注目したいと思います。

3時間はあっという間

上映時間は3時間。しかし、時間の長さをほとんど感じさせないものでした。ジャンルとしてはアクションに加えてサスペンスなので、追いかけてくるのがベタに怖いです。相手は軍隊ですから、訓練を受けた相手であり、どんな手を使ってでも探し出すという任務があります。

また、レオとチェイス・インフィニティについては、親子のピュアな愛があって、ここはヒューマンかと思います。最初の論点に戻りますが、これまでは年齢差があろうともロマンスになっていたので、ここが親子愛になったことは大きいです。ですから最後、ハッピーエンドとして見たい観客としては、「早く終われー、ハッピーエンドで終われー」と思うわけです。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』… 一つの戦いが終わると、また次の戦いが待っている。
それは「フレンチ75」の活動や軍の取り締まり、逃走するメンバーたちの物語でもあります。

私は本作を、体制を風刺する寓話とは思いませんでした。
むしろ、過去と現在をぶつけ合わせ、その緊張の中から新しい意味を立ち上げる弁証法的な作品だと感じました。
主人公の若い日々から十数年を追う物語は短い時間軸ですが、そこに建国者ベンジャミン・フランクリンの思想が今なお息づく様子が見え隠れします。
そして、その“息”を受け継ぐ者たちは、まさにその思想の延長線上で行動しているのです。

歴史が断片的に顔を出す今日、私たちはその過去とどう対話していけばよいのでしょうか。

アンダーソン監督の映し出す「アメリカ」。体制を中から壊していく感じが見られた今、監督の作風も、そしてアメリカも、どうなっていくのか注目です。

今日はこの辺で。

P.S. 私の敬愛するRoget Ebert氏のサイト(こちら)でも、星4つ(満点)の評価でした。うれしいな。

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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