丸腰で血に染まるヒーロー、『28日後…』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

海外で夏休みを取っており、2回お休みをいただきまして、失礼いたしました。本日は旧作、ダニー・ボイル監督の『28日後…』(2002)(Amazon Prime)です。ボイル監督といえば、ヒット作『トレインスポッティング』が1996年ですから、こちらも初期の作品に分類されるでしょうか。

当時もSARSの流行(2002年後半〜2003年前半)がありましたが、まだ世界的感染症については誰も知らない時代です。血液から飛沫感染するのに、誰もマスクや手袋していないとか、ツッコミどころはあります。

『28日後…』へのひと言

キリアン・マーフィーの変貌ぶりに目を見張る。

全体を通して、キリアン・マーフィーがいい役者だということに尽きます。

まずこの青年ジムが丸腰で目覚めるところから始まります。

ちょっと桃太郎のようなヒーロー・ジャーニーなのですが、始めはヒヨヒヨで、すぐにでもゲームオーバーになりそうな弱さです。そこから仲間を見つけて旅が始まります。旅と言っても鬼退治ではなく、自分のようなウィルス非感染者をかくまってくれるような軍隊や病院のような公的組織を探しに。

武器もなく、つねに丸腰。で、同世代の若い女性ナオミ(ナオミ・ハリス)と、少女ハンナ(メーガン・バーンズ)と出会いますが、二人に対して紳士的です。めっちゃいい役。

一方で、物語後半では軍人との出会いもありますが、軍隊では死と隣り合わせの厳しい現場。正気ではいられないこともしばしば。普通の感覚では意見も通じません。

あることをきっかけに、ジムもその基地には居られなくなりますが、そこからのジムの変貌ぶりがすごいのです。え、あなたサバイバル術身につけていたっけ? 相手を騙すような技術を持っていたっけ? そんな疑問が湧くような、ゲームが始まります。

そして、武装しているから勝つとは限らないのも、面白いところ。

どうか彼の狂気の果てを、お楽しみください。

ツッコミどころはたくさん

本作品は2時間弱ですが、ホラー/スリラーなので、話の所々にお約束の山がないといけません。

つまり、あえて人が集まるようなところに足を運んでみたり。誰もいないガソリンスタンドの建物に侵入してみたり。カラスがうるさいと叫んでみたり。やらなきゃいいことをやるので、トラブルが起きます。

狂気の最たるものは、軍隊の基地の中に、仲間である感染者を生かしたまま鎖につないでいることです。この感染者も軍人ですから、体力はある。そして襲いかかってくるが、鎖の長さが届かない。数日後に命を落とすとは言え、いつ吐血が飛び散るか、鎖が緩むか、分かりません。リスクゼロにしなければいけないところを、このようにゆるく残してしまうのが、フィクションだなと思います。こういう詰めの甘さが、あとで伏線回収してくれるわけですが。

もう一つの狂気は、こういった軍隊につきものの、性差ですね。男性中心の社会において、性欲処理のため女性が必要という考え方があります。この映画の場合はもう少し終末的で、未来に希望を持てない、将来が約束されていないから、子孫を残せる行為が精神的にも必要という理屈が出てきます。やはり社会が不安定であれば、女性が狙われたり犯罪の被害者となったりしますから、平和な社会というのは本当にありがたいものです。

そう言えば、人っこ一人いないロンドンの街なんか、見どころでした。2003年ですから、CGで作ったとか消したとかではなく、かなり交通規制をして撮ったようですね。その意味でも価値があります。

キリアン・マーフィーはほぼ同世代、これからも楽しみです。

『28週後…』(2007、ファン・カルロス・フレスナディージョ監督)『28年後…』(2025、ダニー・ボイル監督)も公開されています。

今日はこの辺で。

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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