静止画的な美しさに酔う、『今すぐ抱きしめたい』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
今回も旧作、王家衛監督のデビュー作、『今すぐ抱きしめたい』(1988)です。しかし初監督ながら著名な俳優を起用しているのは、すでに脚本家として知られていたからとか。
『今すぐ抱きしめたい』へのひと言
タブローの美しさ。
本作はタイトルからラブロマンスと思いきや、これは偏った邦題。中身はクライムです。
香港ノワールとはいえ、茶番のような争いのシーンが多すぎる。正直ドリフのコントのようです。
主人公はピッカピカのアンディ・ラウとマギー・チャン。公開当時それぞれ27歳、24歳とのことで、アジア人だからか歳は結構いっていますね。二人は「いとこ」だそうで、どこまで本当かも不明ですが、次第にお互いのことが気になり始めます。アンディ・ラウはグループの兄貴的存在で、義理人情に厚いですが、西城秀樹さんとの相似を感じざるを得ません。名脇役のジャッキー・チュンは、相変わらずジャッキー・チェンに似てるけど…。
そんな中、時折画面が美しいことが救い。闘争のシーンではなく、生活感のない空っぽのフラットで冷蔵庫の前に座る二人、街のビルに空虚に光るネオン、人通りがない夜中の駅の階段など、ごちゃごちゃとは対極の画面構成が記憶に残ります。二人が向き合うシーンも、真っ暗くて見えないのがいい!
ウォン・カーワイ監督の色彩や画面構成で魅せるという魔術が確立する前ゆえに、大通りの群衆や中華料理店の客でゴチャゴチャ感が目につく。しかしポストカード的に脳裏に残るシーンも散りばめられた作品でした。
田舎娘マギー! 音割れするBGM
九龍に住んでいるアンディを訪ねてくるマギー。最初は病弱でマスク。アンディは気になるお兄さん的存在だが、気持ちを打ち明けることもしない。マギー・チャンのミニマムな演技を引き出したのが、ウォン・カーワイ監督と言われているそうです。
ボリューミーなボブ(おかっぱ)に、スラリと長い腕と足。アジア版りかちゃん人形で、出てくるだけで画になるので、セリフは不要。女優業には失礼なコメントながら、存在感がハンパないので、そんなふうにも思います。

原題の「旺角卡門」(モンコック・カルメン)は、いわゆる歌舞伎町的な治安の悪い場所に、男を惑わす女性が現れるイメージでしょうか。香港ノワールということは、悪女の存在も不可欠ですが、劇中に出てくるクラブの雇われホステスが主人公ではありません。マリア様というほどでもないですが、可憐で純粋なカルメンが、この田舎娘マギーです。
そして英語の歌詞の曲を使うのもウォン・カーワイ監督の特徴ですね。映画『トップガン』で使われた「Take My Breath Away」(今回は広東語バージョン)が印象的でした。ラブソングなので、まだ近づいていない二人には場ちがいとも感じつつ、近づきそうだと予感させる。音質の悪さも演出なのかと思います。
4Kで楽しめます。
今日はこの辺で。