思わず主人公をガン見してしまう90分『フォーチュンクッキー』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです! 先週は旅の途中で書きたかったエピソードがあったのですが、間に合わなかったのでまたの機会に。
『フォーチュンクッキー』(2023)という作品を見てきました。ババク・ジャラリ監督。ジム・ジャームッシュ監督作品を彷彿させる、という宣伝文句は褒め言葉ですが、監督のプライドはいかに。小津安二郎監督の360度ショットは多用されていました。
ちなみに作品の原題は「Fremont」。カリフォルニア州の地名を指しています。
『フォーチュンクッキー』へのひと言
白黒だからの集中。

白黒作品、表現者にとっては「色を入れない」のはものすごく表現を限定されていることに違いありません。でも、色が脱落していることによる観客のディテールの集中には、凄まじいものがあると思います。
主人公は、アフガニスタン出身でアメリカに亡命した若き女性、ドニア(アナイタ・ワリ・ザダ)。目も眉毛も鼻もはっきりしていて、「濃い」顔立ちです。
ドニアや登場人物のちょっとした表情の変化に目がいくようになっている。それが白黒のマジックです。
もう少し言うと、音すら制限されています。クリニックのシーンではいつも壁時計の秒針が聞こえ、沈黙が居心地悪いレベル。本当に引き算での、削ぎ落としての、ストーリーなのです。
自分のことを大切にする
映画の中で、工場の中国系オーナーが、ドニアに聞きます。”Do you love yourself?”(自分のことを大好き?/大切にしている?)
ドニアが「イエス」と答えると、じゃあ口に出して言いなさい、となり、ドニアが “I love myself.” と言う。ここは話のかなり中核です。
ドニアはカブールで生まれ、アメリカ空軍の通訳をしていました。米軍撤退とともに、“裏切り者” は命を狙われるため、家族を残して単身ヘリコプターに乗った、と。そういう過酷な話を聞きますが、戦闘機も兵士も爆撃も一切映像に出てこない。本当に淡々としています。
その中で、夜眠れなかったりもしながら、「自己信頼」を高く持たないと、普通の人生をやっていけないというのが、こういった特殊環境に置かれた方々の生きづらさでもあります。
このドニアは、自分を大切にしているからこそ、周りから大切にされます。オーナーに可愛がられている。食堂の給仕をするおじさんが、気にかけてくれる。プロボノで診療をする精神科医も、なんだかんだ言ってドニアを喜ばせようとします。そして町の外にある車の修理工まで。なんか人の関心のようなものが、作品を温かいものにしています。そして目線はとてもフラットで、「可哀想な人」や「自分より下の人」ではないところも、すごい。
ドニアと修理工のかけ合いは笑いを誘うもので、ドニアのユーモアが魅力としてしっかり伝わってきます。だんだん人生に前向きになっているようにも、見えます。
アメリカ映画(アメリカを舞台にした映画)で、英語がネイティブでない外国女性が主人公。このことだけでもう2020年代が滲み出ています。プロットにどんでん返しがありながら、ちゃんと小さな恋物語に落としてくるあたりが、サイコー! 小粒ながらハートフルな作品でした。
今日はこの辺で。
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