プロ魂が心地よい、『国宝』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
噂の作品、『国宝』(李相日監督)に行ってきたのですが、その数日前に6月の歌舞伎公演を見に行っていたため、感動もひとしお!
『国宝』へのひと言
「はいっ」の信頼感が好き。
本作は、ドキュメンタリーかと思うようなフィクションでした。歌舞伎の世界は、やはり表も裏も面白い。世襲制ゆえに、その「家騒動」に日本中が注目します。
歌舞伎は男性オンリーの世界。教えるのも、教わるのも、衣装を着るのも、着替えを手伝うのも、楽器を奏でるのも、小道具を運ぶのも、全部男性。
私が聞いていて心地よかったのは、着物を着る時や、舞台で衣装替えをする時に、役者が小さな声で言う「はいっ」でした。
つまり、「整いました」という意味です。私は準備ができましたので次をお願いします、という意味なのでしょう。最小限の言葉で相手の行動を促す。そして歌舞伎ですから、「OK」とかは言わないわけです。
この二文字に現れるお互いへの尊敬と信頼の気持ちを、清々しく見ることができました。
私はドキュメンタリーを強めに楽しんだのですが、フィクションとしては物語の起伏が必要で、主人公の人生はなかなか波乱万丈ではありました。でもそれがなかったとしても、よい作品だったと思います。
歌舞伎への貢献
こうやって映画のテーマである血筋にも関係しますし、吉沢亮さんと横浜流星さんが役作りに1年半をかけて演じたことをきっかけに、歌舞伎に注目する若年人口が増えているようです。たしかに、東京・歌舞伎座や京都・南座、他にも地方での芝居小屋で撮影した舞台は、大変見事でしたし、歌舞伎界からの全面協力があったことが分かりました。ここまで撮影に協力したから、その後のリターンがあってもいいですよね。
一方で、1年半をかけてここまで演じられるんだと思った時に、本家本元の歌舞伎役者は何をもって本物とするか、です。私は鑑識眼があるわけではないですが、劇中の吉沢亮さんに歌舞伎役者の生涯を見ましたし、若い時も中高年も、彼の女形は美しかったです。これは歌舞伎界へのチャレンジにもなりますし、作品テーマである血筋にも関係します。
途中、吉沢亮さんにも横浜流星さんも人生の山と谷を経験します。名前が売れている人も、地方のドサ回りのような営業、やるのかしら。そこはあまりリアリティがなかったけれど、インターネット到来より前の時代、テレビや週刊誌から身を隠すように暮らすことも、起こり得たのだと想像しました。
レイヤー(層)の楽しみ方
私の持論で、「いい映画は層がある映画」と言っています。
本作の層の一つは、主人公が役者であるという点です。つまり、吉沢亮さんは主人公の花井東一郎を演じ、この花井東一郎が舞台で藤娘や遊女お初などの女形を演じている。つまり一つのからだで二人を演じることになります。
もう一方は、歌舞伎のお家に生まれた寺島しのぶさんに見られる、役者の実生活とのオーバーラップ。もちろん寺島さんの存在感も抜群ですが、彼女が演じているのは歌舞伎役者の妻。小さい時から見てきた舞台裏の世界、映画の観客も寺島さんの生い立ちをみんな知っていますから、そこにも層が生まれています。2025年5月から6月にかけて、新・尾上菊五郎(弟)と新・尾上菊之助(甥)の襲名披露興行もあり、連獅子も披露されました。そういったリアルタイムでの出来事も、層として重なったわけです。
三浦貴大さんは、興行会社の社員を淡々と演じていましたが、彼も三浦友和さんと山口百恵さんのご子息、二台目俳優さんです。血筋とは何か、自分を自分たらしめるものは何か、何度も何度も思ったはずです。
主人公の吉沢さんは、歌舞伎人生60年間くらいを演じたので、老け役を含めていい層が出来上がっていましたが、キャストとスタッフの叡智が集結した作品でした。たぶんドッとお疲れになったのだと思いますので、次の作品に向けて十分からだを休めていただきたいです。
名だたる俳優さんが出ていましたが、渡辺謙さんのようなビッグネームでなくてもよかったのでは、というのが感想です。その他のキャスティング、がっちり固められていました。
今日はこの辺で。
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