時を超えたハイブリッド感、『カップルズ』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
本日は旧作。大好きな台湾のエドワード・ヤン監督、『カップルズ』(1996)4Kレストア版が上映されるとのことで、喜んで駆けつけました。この監督の作品をもっと観たかったなぁと思う監督の一人で、59歳で亡くなっています。
『カップルズ』へのひと言
今観ても、古くない。
約30年前の作品ですが、レストアできれいになっていることはもちろん、台湾の街並みを切り取っている感じが瑞々しかったです。
今こういう「多国籍的」な作品は結構あります。濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021)もそんな感じがします。でも、このごちゃ混ぜ感を1996年と考えると新鮮。
舞台は台北で少年4人組のギャングの話。登場人物がよく出入りしているのがハードロックカフェ。娼婦のエスコートサービスをしている白人女性、ジンジャー。イギリス人男性の元恋人を追って、フランス人少女が訪ねてくる。英語通訳できるルンルンがキープレイヤー。4人組の一人はイケメンのホンコン(台湾人だがニックネーム)。父親が借金をかかえて失踪したレッドフィッシュと、痩せ型坊主頭のリトル・ブッダ。国際的な雰囲気もあれば、ローカルな風水占いや迷信が出てきて、古今東西とにかくごちゃまぜ。さらには、彼氏・彼女のシェアまでしている。
もちろんコスメやファッション、初期の携帯電話など、時代を感じさせるものはいくつかあります。でも極めてボーダーレスやハイブリッドな要素もあり、それが近未来的なのか、台湾的なのか、観ていて楽しかったです。
コメディ? チャン・チェン?
さて、まずエンドロールを見て驚愕したのが、チャン・チェン(張震)。ホンコンの役で、長身イケメンながらセリフが少なく、年上女性に完全に遊ばれるなど、本作品での存在感は中程度。
そして作品についてリサーチを始めた時、本作品ジャンルが「コメディ」とされていたのが2つ目の驚き。実際あまり笑える箇所ななく、登場人物の悲喜交々に「クスッ」というくらいでした。
ラストに近いシーンは、タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』のようで、こちらはクライム。ちびってしまいそうです。
そして、フランス人少女とルンルンのラブロマンス的な要素もあります。ルンルン(クー・ユールン)は物静かで冷静、とても好印象。AAAのNissy(西島隆弘さん)を思い出させる、男性性も女性性も持ち合わせる人物。フランス人少女(ヴィルジニー・ルドワイヤン)は『LEON』のナタリー・ポートマンが成長したような感じです。
ここでも、映画のジャンルが交錯しているところが、エドワード・ヤン監督らしいです。
原題の麻雀
本作は邦題『カップルズ』ですが、原題を「麻將(マージャン)」と言います。これにはかなり皮肉が込められていますね。
作品中には、麻雀をしているシーンはチラッとしか映りませんが、街角で誰かが対決しているように、一般の娯楽という認識です。人のお金や性愛への欲が詰まっている。そして、パイ(コマ)は簡単に切り捨てられることもある。そのような社会の構図であることを、多くの映画評論家が指摘しています。
そうか、ごちゃまぜ感はそういうところから来ていたか! 統一感のなさ、一人一人の意図のちがい、影響力の小ささ、刹那的。悪い意味で「今を生きる」的な感じです。
こうやって腑に落ちると、エドワード・ヤンの世界観に浸れたことを嬉しく思います。また少しずつ、鑑賞する機会を作ろう。