「サラリーマン川柳」に見るジェンダーと、新しい関係性

ああ二月、もうすぐ二月、もう二月。

こんにちは、Junkoです!

長年愛される第一生命の「サラリーマン川柳」。1月27日、優秀な100句が発表されました。サラリーマン以外の実業家や個人事業主、フリーランスも認知されている世の中。しかし「サラリーマンで、家では肩身の狭いお父さんの自虐」という印象は、川柳では色濃く見られます。ジェンダーの視点からみると、どんな変化もしくは普遍性が見られるでしょうか。

夫もしくは妻の立場から発言したと思われるものを、いくつか分類してみました。私の解釈は、必ずしも詠み手と一致していないかもしれません。100選は、『AGARA 紀伊日報』から取っています(順不同)。

夫の家庭内「居場所」について詠んだ句

『「出社日は 次はいつなの?」 妻の圧』(在宅ワークマン)
『テレワーク 大きな子供が ひとり増え』(ミートテック)
『自粛中 見えた夫の 定年後』(ハジちゃん)
『会社へは 来るなと上司 行けと妻』(なかじ)
『掃除して! 一応これでも 勤務中』(掃除洗濯犬散歩)
『どこにある ステイホームで 俺の場所』(するめのいのち)

テレワークがないとできなかった句の数々ですが、これは昭和の「亭主元気で留守がいい」(タンスにゴン)の名残だと思われます。会社で働く夫と専業主婦が目に浮かぶ句です。

夫の立場の弱さが感じられる句

『十万円 見る事もなく 妻のもの』(はかなき夢)
『収入減 まず削られる パパの趣味』(大好きな家族)
『会社では 偉そうなのねと 妻が言う』(テレワークの弊害)
『マスクさえ 妻と娘と 別洗い』(まさるクエスト)
『買ってきて 俺は我が家の ウーバーか』(めがね家族)
『部下を褒め 妻に気遣う テレワーク』(名ばかり父さん)

これらも、肩身の狭さ、立場のなさへのぼやきが感じられます。上の2句は金銭的な事象を詠んでいて、小遣いの少ないパパの自虐は定番ですね。

妻との会話量を嘆く句

『耳痛い 常時マスクと 妻の愚痴』(サミー)
『グータッチ 妻は私に ノータッチ』(一生ディスタンス)
『マスクでは 防ぎきれない 妻のグチ』(ワイさん)
『あなたとは 要請なくても ディスタンス』(おとう)
『晩ご飯 娘退出 妻ミュート』(じょせふ)
『自宅でも 嫁との会話 画面越し』(ホットライン)

6句のうち5句は、会話の少なさ、1句は多さをぼやいているようです。

妻の強さに圧倒される句

『嫁の呼吸 五感で感じろ! 全集中!!!』(鬼嫁一家)
『密なのに 妻の抗体 なぜできぬ』(パパ抜き)
『スマホより 俺を認証 しない妻』(山宗雲水)
『休日は 息子鬼滅で 嫁キツめ』(キツめの八重歯)

夫がたじろいでいる様子がよく出ています。コミュニケーションの少なさ、ではなく、コミュニケーションを取るのがはばかられるほどに圧倒的な強さの妻が描かれています。

新しい関係性を彷彿させる句

『あつ森で 仲良くなれる 僕と妻』(指マジック)
『はたら苦が はた楽になる 子の笑顔』(さらり丸)
『遊ぼうよ! 息子よ、パパは 仕事中』(ぼぼるん)
『テレワーク 妻へ感謝の 倍返し』(つべる)

そうなんです、今日はこれらに注目したかったのですが、夫婦間での新しい関係性が読み取れました。1句目は友だち夫妻のような、ほほえましい関係。あつ森はオンラインゲームですが、対面で仲が悪いという印象は受けません。

2句目は男女どちらでもあり得ますが、育児の楽しさを詠んでいます。3句目は具体的に、男性の詠み手として、同じような状況を描いています。

4句目は、もちろん「テレワーク」「倍返し」という流行ワードを入れていますが、照れくさい「感謝」を盛り込んだセンスが素敵でした。「倍返し」ということは、普段から「返している」という抜かりなさもあります。詠んだのはフラットな関係のZ世代ではないかな?という印象を受けます。

それ以外の入選作品

入選おめでとうございます! コロナでのテレワーク、マスク、密がてんこ盛りですが、世代間ギャップみたいなものもありますね。

『リモートで 便利な言葉 “聞こえません!”』(リモートの達人)
『テレワーク いつもと違う 父を知る』(秋乃アキ)
『倍返し 言えぬ上司に 「はい」返し』(ギレン総帥)
『激論も パジャマ姿の 下半身』(王様の耳)
『密ですと ますます部下は 近よらぬ』(急いで待て)
『抱き上げた 孫が一言 密ですよ』(白いカラス)
『コロナ禍が 程よく上司を ディスタンス』(大舞剛人)
『YOASOBIが 大好きと言い 父あせる』(テンビ)
『エコなのか どんどん増える マイバック』(忘れん坊)
『ソロキャンプ そもそも毎日 ソロライフ』(愛すべきソロ)
『いつだろう 同期の素顔 見れるのは』(なんちゃって大学院生)
『下書きの 送信キーを 猫が押し』(油断在宅)
『虹プロで 学ぶダンスと 上司像』(のぼる)
『「密です!」と 訴えたいのは 仕事量』(まっさん)
『どの店も ドレスコードは マスクあり』(もやし)
『力メラOFF 忘れて晒す OFF姿』(にじのいろ)
『社会人 出社したのは まだ5回』(テレ新入社員)
『ハンコ不要 出社も不要 次はオレ?』(我楽多魔手箱)
『リモートの 背景だけは タワマン風』(温洸)
『マスクだと 良く言われます イケメンネ。』(ソノマン)
『喫煙所 入場規制で“密”の列』(禁煙してよかっ太郎)
『脱ハンコ 進めるために 判が要る』(公務印)
『体重増! リモート会議で あなた誰!?』(ダイエットスタート)
『「行ってくる」ふすま一枚 テレワーク』(今日も出勤)
『アイメイク 仕上げにマスク 時短術』(コダクさん)
『別人か 初めて知った 仕事顔』(ぴょんきち)
『オンライン 説教したら 画面消え』(メタボリック父)
『はんこレス 上司の仕事 吹き飛んだ』(ラッキー小太郎)
『気付かない 理由はマスクか すっぴんか』(チュニャン)
『小遣いを 電子マネーで チャージされ』(息子も同じ)
『じいちゃんに J.Y.Parkの 場所聞かれ』(けぇぽっぷ)
『週一の 通勤だけで 息切れる』(けぇぇぇぇぇ)
『トレンドは ワンチームから Teamsに』(マイクロそふと)
『プツプツと 途切れる意識と 無線ラン』(竜士)
『マイクON 部長の悪口 配信中』(逆ペリカン)
『オンライン 見える範囲で 見栄を張る』(多苦労)
『リモートで ミュート忘れて 愚痴バレる』(ねぼ)
『咳き込んで 視線が痛い 電車内』(愛飲酒多飲)
『久々に 家族が揃った 在宅で』(もう100パーセント出社おやじ)
『持ち帰り 昔は仕事 今はメシ』(主夫と主婦)
『出勤が 運動だったと 気付く腹』(からあげ大好き)
『3密を 避けて振り込む お年玉』(孫孝行)
『副業で 出前届ける 部下の家』(緊急事態宣言)
『「5円」見て ビジネスバッグが エコバッグ』(おつかいパパ)
『「やばいです」それはいいのか 悪いのか』(カクト)
『あつ森に「ローンの返済 先越され』(NOベル)
『あの密を 恋しがる日が くるなんて』(めめりん)
『お父さん マスクも会話も よくずれる』(さごじょう)
『ズーム飲み 背景代えて はしご酒』(五時から男)
『ダイエット 時を戻そう おやつ前』(フィード・パス)
『定年後昔悠々 今窮々』(こんなはずでは)
『テレワーク 子供の参入 場が和み』(ヨミ坊)
『今の何? 半裸横切る Web飲み会』(あけたん)
『弁当に 今日の元気を 詰める母』(ぜんしょう)
『何曜日? 在宅勤務で わからなく』(小平主計将校)
『ペイペイは どこのパンダと そっと聞き』(アナログ子龍)
『マスクして 上司の顔色 読み取れず』(やればできる)
『孫の顔 初めて見るのは スマホ越し』(デレデレじいちゃん)
『飲み会の 会場さがし 家の中』(ひだっち)
『我が部署は 次世代おらず5爺(ファイブジイ)』(松庵)
『通勤も しなくていいと したくなる』(ないものねだり)
『テレワーク 気付いた会社の イスの良さ』(首肩凝蔵)
『終電が、、。 WEB飲み会では 充電が、、。』(直行直帰)
『お若いと 言われマスクを 外せない』(エチケット)
『終われない 終電が無い ズーム飲み』(ヒゲだるま)
『寝ているの? 返事がないよ Web会議』(ラーノ)
『新人が イケメンと知る 食事中』(しーしー)
『世は鬼滅 給与減って 俺自滅』(下町の優男)
『リモートの 上司の指示は 現場見ろ!』(万年課長)
『置き配を 不審物だと 騒ぐ祖母』(う一婆いーつ)
『熱っぽい 昔は出社 今待機』(メタボ)
『リモートで 不要不急に なる職場』(シュー)
『倍返し 真似してみたら 俺無職』(たけしん)

今後も、どんどん新しい感覚の川柳が生まれること、選ばれることを期待しています。「肩身の狭いお父さん」だけではなく、もっとイケイケの川柳や、違う関係性を描いた句もありうるのでは。例えば、同性カップル、シェアハウス、専業主夫など。自分と似たところに共感するだけではなく、自分と違う人のやり方見方を発見するいい手段になると思うのです。

今の感覚ではツイッターに近いと思いますが、575に収める和の表現は引き続き楽しみたいものです。

世相を表すサラリーマン川柳のように、等身大で飾らないつぶやきが、好きだ!

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

おすすめ