フィクションゆえに見られる、『君の顔では泣けない』
こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!
観客レビューがよかったので、観てみようと思って足を運んだ作品、『君の顔では泣けない』(2025)。君嶋彼方原作(Amazon)、坂下雄一郎監督作品です。
内容は、男女が入れ替わるテッパンネタ。私が思い浮かぶものは、大林宣彦監督の『転校生』(1982)ですね。
『君の顔では泣けない』へのひと言
アイデンティティの崩壊。
本作は、15歳の陸くんとまなみさんが、ある夏の日にプールに飛び込んだのを機に、心が入れ替わってしまう。それが15年続くお話です。
フィクションなのは知っています。でも、私は異文化トレーニングで、名前を奪われた人々(ホロコーストで名前を番号に置き換えられたユダヤ人など)や、信仰を捨てることを強いられた人々(日本の「踏み絵」のような事例)について学んできました。
自分のからだは、アイデンティティと強く結びついています。そして自分の姿がどんなであろうと、自らの体や顔は、自分そのもの。他人が自分の外見を認識しない環境は、とてつもないストレスですね。
性自認に関しても、同じようなことが言えます。自分は女なのに、男のからだをしている、男と思われている状態。強烈なストレスがかかることが想像できます。
本作は心が入れ替わった中学生時代から15年が経つわけですが、いやいや、これがもし起きたなら、1か月で病んでしまう、生きていないかもしれないと思います。
原作の君嶋さんも、深い考察を残されています。
「君の顔では泣けない」がタイトルですが、冷めてしまって泣けないという意味のようです。そうではなく、むしろ自分の顔とからだをハイヤーセルフに見立てて、泣いてしまうのではないか。そんなふうに思いました。
ですから、15年も入れ替わったままだということは、フィクションだから見られること。
エンディングは想像していた通りで、気持ちのよい終わり方でよかったと思います。
男であること、女であること
ダイバーシティが叫ばれる時代において、男らしい言動、女らしい言動を演じるのはほぼナンセンスとなりました。が、服装などはやはり男女差が出ますね。
まなみさんはすごくガーリー、陸くんはカラフルで、体の線が見えないようなオーバーサイズ気味に仕上げています。自分で服を選んでいるってことかな。
決定的に違うのは、コミュニケーションスタイル。女性の方が上手なんです。だから、中身が女の子で外見が男の子だったら、一番モテるにちがいない。実際に、成人した陸くんはモテてましたね。髙橋海人さんは、日常でもメイクをしているのが通常の印象で、やや中性的でしょうか。
層のある映画
本ブログで繰り返し言っているのは、「層のある映画はいい映画」ということです。
この作品では、陸の心をしたまなみを演じた芳根京子さん、そしてまなみの心をした陸を演じた髙橋海人さんがいます。ここに二重のレイヤーがありますよね。
二人の高校生時代を演じた西川愛莉さんと武市尚士さんも、とてもよかったです。お二人ともまだ15歳で、等身大の陸とまなみを演じられましたね。
全体的に透明感があり、自然な演技で、好印象の作品でした。原作も読んでみたくなりました。
今日はこの辺で。
