旅行者にも審査官にもなる体験、『入国審査』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

入国審査って、ちょっと緊張する。できればこの緊張は味わいたくない。観客の共感を得られるとしたら、このことに尽きる。

本作『入国審査(Upon Entry)』は、2022年のスペイン映画で、アレハンドロ・ロハスフアン・セバスチャン・バスケス共同監督作品。監督がお二人ともベネズエラ出身で、スペインに移住したときの体験がもとになっているのだそう。日本では2025年7月公開でした。

『入国審査』へのひと言

カメラワークによる切迫感。
物語は、スペインからニューヨークに移住しようとするカップル、ディエゴとエレナが、空港で別室に呼ばれるところから始まります。光が一切入らない地下の部屋で、狭い室内で、スマホにも触ることが許されない。

カメラは被写体にぴたりと寄り添い、画面の中に余白がないことで、観客への圧がすごいです。

このカメラワーク、『あのこと』でもそうでした。『あのこと』では主人公の追い詰められた気持ちが、限りなく視界を通じても共有されましたが、今回は物理的にも押し込められています。

もちろんおちゃらける場所ではないし、何か変なことを言って入国できないの困りますから、淡々と指示に応じるしかありません。

イヤなのが、入国審査官の一人がスペイン語話者ということです。ヒスパニック人口の多いアメリカならではですが、「英語が分からない」という言い訳ができません。

入国審査官は複数出てきますが、どの人も超リアル。プライベートな質問に、「全てを従わせる」だけの権力を振りかざしてきます。もちろん、旅行者の2人も可能な限り対抗します。

男性側に、ある隠し事があって、そのことが問題となりますが、これもとてもアメリカらしい事情なのです。日本にいるとほとんど感じませんが、母国に住むよりもアメリカに住めた方が安全ということで、この国を目指す人はたくさんいます。

どこにでもいそうな幸せなカップルが、そうでもなくなる瞬間もあり、問題の大きさを感じます。私たち観客も、応援していたのに疑いたくなってしまう。つまり立ち位置をグルングルンと振り回されます。

ラストは衝撃でした。77分の緊張の糸が、突然切れます。時間もほぼ現在進行形で進んでいくのですが、そのことが現実に基づいた話なのだと知らせてくれます。

国際映画祭と評価

本作はタリン・ブラックナイツ映画祭でのFIPRESCI賞受賞を皮切りに、コルカタ国際映画祭で最優秀作品賞、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト=テキサス)での北米プレミアなど、国際的にも高く評価されました。

ちょっと知りたかったのは、アメリカ人がどうこれを見たかです。もし日本の入国審査が映画になったら、「テキパキして早かった」とか「言葉を交わさなかった」とか。別室に連れて行かれるという内容もあまり聞きませんし、ドラマになる要素がないと思うからです。

本作は、こういった旅行者の恐怖心をリアルに表現していたところが評価されたようです。作品の描写への批判はないようでした。

映画『入国審査』は、この居心地の悪さを体験する作品と言えるでしょう。本作はイヤな汗をかく感じでした。私は、もう少しフィクションで、謎解きの要素などがあると別の楽しみ方もできたなと思った次第です。

入国審査のパロディ

私が好きだったアメリカのコメディの一つに、「MADtv」があります。今見るとかなりギリギリで、笑えないものもありますが、空港の入国審査を題材にしたものはとても多い。なぜなら制限があるからです。

ある意図に沿って人が行動するように強く誘導されているので、そこから逸脱するのが面白いのです。

緊張を味わった後は、笑いで緩和しましょう。

今日はこの辺で。

映画公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/uponentry/

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

おすすめ